井出耕也の気まぐれ料理読本
井出耕也の気まぐれ料理読本
(97年12月14日から掲載)
男の料理は案外味がある。講師はフリージャーナリストとして雑誌、新聞、週刊誌で活躍中の井出さんです。
★灯油ストーブ愛好者のためのビーフシチュー。(010228)
石油ファンヒーターが嫌いな人は少くないと思う。
あれは文化的じゃない。あのファンの風は野蛮だ。
昔ながらの灯油ストーブこそ文化的な暖房器具だ。
だいたい停電になったら使えなくなる暖房器具とは何だ。
根性がない。灯油ストーブは電気なんかいらないぞ。
その灯油ストーブなればこそのビーフシチューのつくりかた。
まず牛肉の固まり肉を購入する。
脂身が好きな人はばら肉。
赤みがいい人はひれ肉(高いけど)。
ベストはすね肉。
だけど牛肉ならなんでもいいんだよ。
テール(尻尾)もいいな。
ワニとかカンガルーとか、ダチョウとかもいいんじゃないかな。
手に入るんならね。
それを適当な大きさに切って、塩、故障して、
フライパンで焼き色をつける。この時の火は強火。外側を焼くだけだから。
凝りたい人は、肉を焼く前に、
玉葱やニンジン、セロリなんかをザク切りにしたのと肉と一緒にして、
ポリ袋に入れてその上から赤ワインを注いで一晩なんてこともやるが、
そんな面倒なことはやらんでもいい。やってもやらんでも大差ない。
肉を焼き終わったら、鍋に水を張り、玉葱、ニンジンをザク切りにして入れ、
灯油ストーブの上に乗せて、後は、時々水を足しながら、ひたすら煮る。
一時間か二時間も煮ればいいだろう。
この時、セロリのきれっぱしはぜひ入れておきたいものだが、
きれっぱしが欲しいばかりにセロリを買うのも馬鹿馬鹿しいから、セロリのパウダ
ーでいい。
また、肉を煮るとあくが出るけど、あくを取るのは最初の頃だけにして、あとは
ほっとく。
多少のあくは気にしないこと。うちはレストランじゃないんだという心意気だ。
箸で肉をつついてみるとかして、やわらかくなっていたら、
ビーフシチューのもとをいれる。これはレトルトの一番安い奴で充分。
フライパンで別に玉葱、ニンジン、ジャガイモを炒めて加え
最後に好みの濃さと塩加減に調製して、
灯油ストーブで暖まりながら食べてください。
なお、ばら肉を使った場合は、結構、油が出るけど、
鍋のまま外の冷たい空気にさらしておけば、
油が白く固まるから、取り出すのは簡単。
また、こうしたほうが癖がなくて食べやすい。
★酒池肉林の肉
なんか話には聞いているが、世の中には酒池肉林とかいうものがあるらしい。
酒池は何とかなる。トラックで酒屋に乗り付ければいいだけのことだからね。
だが、肉林というのが困るなんだな。
手間も経費もかかるし、下手すると訴えられて手が後ろにまわる。
だから、ちょっと趣旨に反するけども、
肉林のほうは、とにかく肉を沢山用意するということで我慢しましょう。
肉は最近は安いからね。
まず牛肉のもも肉の固まりを購入。
松阪肉なんかでなくて、うんと安い肉でいいんだ。それで充分にうまい。
それを薄切りにして皿に並べる。まあ、一人分、300gぐらいがいいだろうな。
もっと肉林にしたい人は500gかな。でも、500gは結構ヘビーだぞ。
そして小皿に醤油を入れて、刺し身の要領で食す。
その際、薬味は不可欠。
わさび。からし。おろしにんにく。
ゴマ油と塩というのもいいかもしれない。
ごはんのおかずにもなる。
これを週に三回ぐらい喰うと、酒池肉林気分がもりもり湧いてくる。
ついでにやたらに喉が渇くようになるが、慌てることはない。
赤みの肉(ということは動物性たんぱく質ということだ)を大量に摂取すると、
消化するために水分を多く消費することになるからだ。
酒池肉林はやればやるほど喉が渇くのだよ。
だからほどほどにね。
★イノシシ(000108)
川崎の兄貴のところに年賀に行ったらイノシシが来ていた。
まるまるのイノシシじゃなくて、イノシシの肉が。
信州で取れたイノシシだそうで、
誰がどこで仕留めたかもわかっている本物のワイルドなイノシシ肉。
その固まり肉を目の前でスライスして、ミソ仕立ての鍋にしてくれた。
いや、うまかった。
ジワッと肉のうまみが口の中に広がった。
そのうまみは豚肉とも牛肉とも違う。
身体にしみわたるような滋味を備えている。
肉は濃い色をした赤身がほとんど。
だが、脂身もあった。
そして、この脂身が強烈だった。
鍋にかかった時は、おそらく臭みがあるだろうから、
脂身はのけておこうということになったが、
たまたま一緒に席についた人間の中に、
肉の脂身が好きという奴が二人ほどいて(うち一人は私だが)、
やはり入れようということになって、それが大正解だった。
熱い脂身の切れ端を噛みしめると、木の実のような香りがした。
私は何の香りがわからなかったのだが、
一人が「これは山胡桃の匂いだ」と叫んだ。
そうだ。まさに胡桃の香り。
私はついにこの香りに巡り会えたのだ。
この香りの話を聞いたのは、一昨年の夏だったか。
新潟県・南魚沼郡の温泉につかっている時、
たまたま一緒になった地元の人が話していたのだ。
「狸もムジナもうまいもんだよ。獲る時期を選べばの話だが、
胡桃のような匂いがあってね」
話していたのは地元の猟師。
まさか、川崎の小田急沿線の町で、
まさか、こんなに早く、
その匂いに巡りあえるとは思わなかった。
★家を離れ、街を離れ、自由へのあこがれ風じゃっぱ汁(971224)
1、魚屋でスケソウダラを買う。
ただし、一匹分を丸ごとぶつぎりにしたものに限る。
2、白菜、葱など好きな野菜を好きな大きさに切る。
ゴボウもいいかもしれない。僕は好きじゃないから使わないが。
3、鍋に水を入れて市販のダシの素を入れ、野菜を煮る。
味付けは醤油、みりん、酒で。味噌が好きなら味噌でもいいんじゃないか。
4、野菜に火が通ったあたりでタラを入れる。豆腐もいい。
5、汁、野菜、タラを椀にとり、みんなでワイワイ言いながら食す。
※ じゃっぱ汁は青森の冬の味覚のひとつ。ただし、正統の作り方は知らないんで、こういうネーミングにした。もともと郷土料理だから、各家庭でバリエーションはいろいろあるだろうし、別に正統、異端にこだわらなくてもいいと思う。
この料理のポイントは肝を必ず使うこと。購入する時は肝が入っているかどうか確認しなければならない。もし、入っていなかったら、他の献立を考えること。
魚の汁はうまいものだ。昔は好きではなかったが、20代の後半、5月の連休の一人旅をきっかけに好きになった。
当時は結婚したばかり。女房の親の実家に同居していた。連休はどこにも行くつもりはなかったが、なぜか、女房が妙に熱心に旅にでも出て気分転換してはどうかと勧める。その頃、実家の親のほうでは、娘の旦那が転がり込んできてしまい、何かと気をつかうのがわずらわしくなっていて、連休ぐらい、のんびりしたいという気分になっていたらしい。
そうとは知らず、僕は東北に向って一人で旅立った。あまり気が進まなかったが、旅は嫌いなほうじゃなかったし。
あれは2泊だったか3泊だったか、予約もしてなかったし、金もなかったし、いきあたりばったりで民宿を泊り歩く気ままな旅をして、ある日、下北半島のどんづまりの大畑の民宿で、夕食に魚の味噌汁がついた。何という魚だったか忘れてしまったが、そのうまかったこと。白身で底魚の類だったと思う。その夜遅く、うつらうつらしていて、突然、気がついてゾッとした。そうだ、明日は会社だ!。
幸運なことに次の日は午後出勤だったので、何とか連休明けのみえみえの欠勤という事態は免れることができた。しかし、今日が何日か失念するなど、それまでになかったことだった。別に楽しい旅でもなかったが、気ままな旅の中で、僕の中に眠っていた何かが動き出したらしかった。
その眠っていた何かとはなんだったのか。いまだによくわからないが、きっと、自由への憧れみたいなものだったのだろう。なんて言ったら、格好をつけすぎだから、正直に言うなら、いろいろなことを放り出してしまいたいという無責任な気分というほうが正確だろうか。ともかく、それ以来、魚の汁には目がない。魚の汁を味わっていると、なぜか、ほのかに自由の風を感じるからだ。あれは本当にいい旅だった。その何年後か、僕は会社をやめてフリーになり、女房とも別れることになった。
★りんごのデザート政治家の甘い笑顔風(971217)
1、林檎を8等分に切り、薄くスライスする。厚さは2mmから5mmぐらいがいいと思うが好き好きで。皮は剥いても、剥かなくてもいい。
2、林檎を皿に移し、上から蜂蜜をかけまわし、シナモン・パウダーを振る。これで出来上がり。シナモンはハーブ売り場に行けば瓶詰めで売っている。
3、バリエーションとしてアイスクリームを付けあわせたり、さらにチョコレートをか
けたり、コァントローのようなリキュールをかけたりしても可。餡子はちょっと合わな
いかもしれないが、和風甘味が好きなら試してもいいかも。
※ポイントはひたすら甘く甘くつくること。ちょうど、最近の政治家のとってつけたよ
うな笑顔のように。
戦後の30年代頃までの政治家は、そんな笑顔は持ち合わせていなかったと思う。その
かわりにもっと迫力のある顔を備えていたと記憶している。いつから、政治家がいかが
わしい笑顔をもって集票やイメージ・アップに役立つと勘違いするようになったのか。
さだかにはわからないが、たぶん、イメージ戦略とやらで、広告会社が選挙の手伝いを
するようになってから勘違いが始まったのだろう。ラーメンやスナックを売り込む間隔
で政治家を売り込んでもらっては困るのである。本質的にぜんぜん違うものではないか
。
絵に描いたような笑い皺を目尻に持つ某首相(最近は中国人女性との交際疑惑が一部週
刊誌で取り上げられた)、また、ぜんぜん似合わない笑顔をつくる某党首(彼のような
キャラクターの政治家には笑顔なんてぜんぜん求められていないのに)、選挙になると
白い手袋に白いスーツで着る某々政治家(さすがに、もう、そんな奴はいないか。いや
、わからんぞ。この勘違いは結構根深いものがあるからな)。
まったく困ったもんだ。有権者を馬鹿にしては困るのである。むやみに愛想のいい人間は信用しちゃいけない、ということぐらいは、普通に暮らしている人間なら誰でも知っていることではないか。それに気付いていないのは政治家だけである。ところが、その程度のこともわからん政治家たちが議員に選ばれて権力を握っているんだから、何をかいわんやである。
では、どんな笑顔なら信用されるのか。実は政治家には笑顔など基本的には必要がないのである。目の前の事実をちゃんと見て、時代と社会の声をちゃんと感じ、自分の理想と見識にしたがって行動し、発言することができればいいのである。と言っても、これはなかなか難しいことなので、だからこそ、まともに政治をやろうと思うなら、魅力的な笑顔をつくりたいなどという馬鹿なことを考えている暇はないのである。
また、まともに政治に取り組んでいれば、顔のほうも自然とそれなりに迫力のある顔になっていくのである。政治というのは結構、苛烈な世界なのであるから。(それにしても韓国の大統領選挙で金大中と元KCIAの金鐘泌が手を組んだのには驚いた)
※この料理のポイントその2は、しかし、素材には注意が必要だということである。
蜂蜜で甘みを加え、さらにシナモンで香りを加えるのだから、どんな林檎でも何とか食えるようになる。だが、このデザートの本当の良さを引き出したかったら、やはり新鮮で適度な甘み、酸味、香り、歯触りを備えたまともな林檎を選ぶことをおすすめする。
どんな甘みや香りを加えようが、やはり素材が決め手になることは政治家と同じである。林檎が良ければ蜂蜜の味やシナモンの香りも生きてくる。
※この料理の由来
どこの料理か知らんが、イスラエルあたりではないかと思う。昔、何かの取材でイスラエル人女性の家に行った時、彼女がつくってくれた。若い主婦で子供が一人いたと思う。政治家のいかがわしい笑顔とはまるで違う魅力的な笑顔の女性であった。だから、ぼくはこのデザートを食する時は彼女の笑顔と彼の地の風を思ってしまうのだ。と言っても、通りいっぺんの取材をしただけで、彼女とは別に何にもなかったんだけどね。彼女もあの林檎のデザートをいまだに覚えている男がいるなんて思ってもいないだろうなあ。
★大根と油揚げの煮物(971214)
正式名称はなんというのか知らん。何日か前のテレビの番組で作り方を紹介していた。特徴は目茶苦茶に簡単なこと。だから作ってみる気になった。
以下、料理の手順。
1、大根を適当な厚さの輪切りにする
(皮については好き好きだけど、剥いたほうがいいと思う。好き好きついでにいうと、
形も輪切りにする必然性はないと思う。四角でも三角でも丸でも好き好きでいいのでは
ないか。ただ適当な大きさがあればいいはずだ)
2、鍋に水を張り、大根を投入して煮る。
煮る時間は好き好き。
石油ストーブに鍋を乗せて放っておけばいい(水に米の研ぎ汁を加える手もあるが、水
でもいいと思う。面倒臭いから)
ちなみにぼくが使ってる石油ストーブは、去年の秋、上田に行った時、たまたま開かれ
ていたフリーマーケットで購入した。価格は1000円ぽっきり。このストーブで二冬
目に突入するが、購入した時についていた電池がまだ使える。驚異の電池だ。
3、別の鍋に煮汁を用意する。
煮汁は水8、醤油1、みりん1の比率が基本。
ダシはもちろんちゃんととったほうがいいけど、面倒だから市販のダシのもとを使う。
そこに茹で上がった大根を投入する。ついでに油揚げを切って投入する。
油揚げの切り方は大き目の三角形か四角形が見栄えがいいと思う。
大根に適当に色がついたらできあがり。
5、この料理の特徴。
凝ろうと思えば、どこまでも凝れるが、手抜きをするつもりなら、どこまでも手抜きで
きる。入りやすくて奥が深い。油揚げなんかも熱湯で油を抜いたり(これぐらいは当然
やるべきという意見もあるだろうが)、大根にこだわったり、ダシにこだわったり。
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