- ブーツフィッティング おまけの読み物 -

おまけのページです。スキーブーツに関するお話を気まぐれにUPしていきます。

その15 カント調整

わはは、助詞も動詞も形容詞もなければひねりも何もないそっけないタイトルになってしまった。

カント調整の問題っていつかは触れなきゃいけないかなあと思ってはいたんですけども、言いたいことがいっぱいでてきてうまく話がまとまらないのですよ。タイトルもいろいろ考えたんですけど何かこうポジティブな表現がでてこないというか、斜に構えたような感じになってしまうというか。


カント調整?自分でやってね

やっぱり触れなきゃダメ?カント調整

こだわらなくていいよカント調整

カント調整ってそんなに大事?

間違いだらけのカント調整

・・・


突然ですが問題です。

アッパーシェルのカントは初期設定では+1°前後になっているブーツが多いですが、次のような場合それぞれどちらが正しいでしょう。

「スキーが思ったほど回らないときにカントをプラス(外側に倒す方向)に調整しますか、それともマイナス(起こす方向)に調整しますか。また逆にスキーが回り過ぎるときにはやはりプラスかマイナスかどちらに調整しますか。」

これ外足・内足どっちの話?と思った方はなかなか鋭い。だいたい内足で回らない・回り過ぎると感じられる人もすごいと思うのですが、いくら内スキーが回っても外スキーが回ってこなければ話にならないので、やっぱり外足です。外足は強い力を受け止めなければならない分、機能のさせ方もシンプルというか融通が効かない足ですし。


そもそもカントって上記のような視点から調整するものということも知らない人は多いのではないでしょうか。

例えばなぜか私はO脚だからと言ってカントをプラス方向に動かしたがる方は多いです。そもそも何を持ってO脚・X脚と言っているのかという問題もありますが、O脚だからフラットに踏めないとか膝が真っ直ぐ入らないとか訴えてくる、それらの現象の原因がアッパーカントにあると思い込んでいる方は本当に多いのです。

実際はそれらの現象が現れているときは、ほとんどがシェルと足のマッチング(フィッティング)、主にくるぶし以下ロアシェル部分から問題がある場合がほとんどで、その場合そこから変えないと問題は解決しません。またその場合はインソールを何かしら調整することだけで根本的な解決につながることもまずありません。もしそれで解決したと思えることがあったとしてもそれは硬い床の上で静止状態での見かけ上よくなったと思えるだけであって、根本的には解決していないというか余計話をややこしくしているだけというケースも実際たくさん見てきました。もちろん適切な機能性インソールを入れることはアライメントのずれを生じにくくする意味でも有効ですし、その分シェルの調整も楽になる場合もあるのですが、インソールに守備範囲以上のことをさせると大概破綻します。


以前あるお客様が新調したブーツが調子悪いから見てくれと言ってきたことがありました。当たりも出ていて歩く姿も確かに不自然というか歩きにくそうな感じです。シェルの加工はしていないということだったのでインソールを見てみると、熱整形タイプで型取りもブロック材の削り出しもまあほめられたものではなかったのですが、例によってブロック材で母趾球側と小指球側で高さを変えてある。しかも足の様子からしても「もしやるにしたって、これ角度の付け方逆じゃん」的なトホホな事になっていたのでありました。幸いウレタン素材のブロック材が両面テープで張り付けてあるだけでしたので、それをひっぺがして再成型させてもらい、アッパーシェルのカントネジもいじってあったのでそこも初期状態に戻してまずは履いてもらいました。

すると履いて立った瞬間に

「あ、すごく自然な感じがする、当たりもなくなった。」

「そ、そんな感じですね。」

ちゃんちゃん


実はそのときの立ち姿は体の中心軸が片方に少し寄った感じで正面から見るとシンメトリーにはなっていなかった。でもそれでいいのだ。さらに適切なシェルのフィッティングをすればまた様子が変わってくる可能性はありますが、その方にとっては現状それが自然であり普段の立ち姿であり、歩いてみてもそれが自然で歩きやすくて動きやすいバランスだったのです。

おそらくそのインソールを作った人はアシンメトリーな立ち姿を見てインソールに何かしなければいけないと思ったに違いない。また、こういう立ち姿になっていた場合「アッパーシェルカントをいじればいいのでは?」と考える方はお客様でも多いのではないかと思いますが、でもカントをいじったからといって体軸が真ん中にくるとは限らないし軸が真っ直ぐになるとも限らない。そこで何か違うと感じて元に戻して考え直すことができればいいのですが、何かもっとしなければいけないのではと考えてしまうと泥沼にはまります、多分。

そもそもアッパーカントは通常はそういう方向から調整する為のものではないと思います。そこにネジがあればつい回してみたくなる気持ちはわかりますが、左右の不均等、フラットに踏めない、脛の湾曲など、何でもかんでもアッパーカントで合わすというところからスタートするから話がややこしくなるのです。


例えば上記のお客様が何か思うところがあって、一年ぐらい掛けて色々体を動かしたりメンテナンスをして見た目がシンメトリーになるように体を変えてきたりしても(その結果が滑りにどう表れるかは別の話として)、おそらくブーツはそのままで履けると思います。流石にそれだけ体が変化すればインソールは作り直したほうがいいかもしれないですがアッパーカントはとりあえずはそのままでもOKとなる可能性大です。アッパーシェルはそれぐらいの許容幅は持っています。

また、例えば現在の時点で適切なシェルのフィッティングをした場合、ブーツを履いた立ち姿はそのまま変わらないかもしれませんし、いきなりシンメトリーに近い感じに変わるかもしれませんし、今はそのままでも使っているうちに何か変わってくるかもしれません。この辺どう変わるか変わらないかは、そのとき何を感じて体がどう反応するかによりますからかなり個人差があります。

私は自分のブーツは勿論自分でフィッティングをしますが、フィッティングが段々決まってくるとロアシェル・アッパーシェル含めてブーツが突然「長靴」のようなふわっとしたフィット感に変わる瞬間があります。そして「長靴感覚」でブーツを履けたときには如何様にも立てるといいますか、ある意味ルーズな感覚で立てるわけですが、そのときはアッパーカントのことなんてとりあえず意識もしないものです。ただしその感覚に頭と体が慣れる度合いというのは人それぞれな感じという印象です。


さて冒頭の問題の答えですが、それを導き出すにはどういう働きかけをするとスキーは回るのかを知っておく必要があります。簡単に言うと、

「インサイドなりアウトサイドなり押すことによってスキーがたわみ、角が立ってスキーは回ります。」

この順番を間違えてはいけません。先に角が立つとスキーがたわまなくなって回らなくなります。またスキーが回るときは大なり小なりずれを伴っているということも理解しておく必要があります。

もうわかりましたね。答えは

「インサイドの角が立ち過ぎてスキーがたわまない(=回らない)感覚の場合は、アッパーシェルを起こす方向(マイナス)に調整する。」

「インサイドの角が立たなさすぎてスキーがずれ過ぎる(=回り過ぎる)感覚の場合は、アッパーシェルを外側に寝かせる方向(プラス)に調整する。」

です。

ついでに言うと「スキーが回る」のと「スキーを回す」のは全然違う話です。勿論適切なセッティングがでていればスキーは自然な感じで回ってきますし、スキーを回しやすくもなるのですが、片方は現象・結果のことを言っていて、もう片方は動作主に操作のことを言っています。この辺の言葉の使われ方の違いをわかっていないとまた混乱しますよね。


実際にアッパーカントをどちら側に調整したほうがいい人が多いのかということに関して言えば、私の経験から言うと、パワーの関係からプラス方向に動かしていい感触が得られる人は少ないのではないかと感じています。ただしQ&Aのページでも触れているようにアッパーシェルのカントをいじってみる価値があるのは本来あるべきフラットに踏めている状態を手に入れてからだということです。

しかもそれを試してみるにはある程度条件を揃えておかないと整理がつかなくなってこれまた混乱する可能性があります。

スキーのチューンナップが自分に合ったいい状態で、それがどういう状態か把握できていること。あわせてできるだけ同じ条件の下でセッティングの違いを比べられること。リフト一本滑っただけで違いを感じられること。何本も滑っていたら体が慣れてきてしまってよくわからなくなります。ましてや日をまたいでなんてことをやっていたら雪質も変わりますし体調も変わります。また雪質の違いによるスキーの反応の違いに惑わされることなく判断を下せること。硬い雪と柔らかい雪では全然反応が違いますし同じ硬い雪でも変に引っ掛かりやすい人工雪ではまた違ってきます。逆に足元が大きく動く春のザラメ雪では全然違いがわからないということもありがちです。

それに自身の感覚と実際に起きている現象、第三者に見てもらった感想、これがピッタリ一致するとも限りません。ブーツによっても効き具合がはっきりと感じられる物とよくわからない物がありますし、ダブルカントのブーツだと前後バランスまで変わってしまいます。そういった違いを整理したうえで判断を下せますか。

あ、そうそう前後バランスの問題といえば、自分の履いているスキーのビンディングの取り付け位置について、自信を持って自分にあった適正な位置になっていると言えますか?前に付き過ぎているとスキーが早く回り過ぎて前に乗り過ぎる感じになりやすいですよ。


ねっ、自信なくなってきたでしょう。あんまり気にしないほうがいいんじゃないですか、やっぱり。


(おまけその15 おわり)