図鑑に載ってない虫

日付:

2007.10.26

キサラギ同様オリジナリティ溢れる日本映画である。亀の次は虫だったのね。「亀は意外と速く泳ぐ」と同様に三木 聡監督の作風は、おかしなキャラクターの宝庫で、われわれはおかしな世界を引っ張り回される。意外な拾いものだ。動物園動物園海⇒ZOO・ZOO・SEA⇒図々しい、などという疲れるギャグを堂々とまき散らし、思ってもみない脱力ギャグにその都度足を取られながら、考えられないバカバカしさに満ちている。

売れないライターの俺は、「月刊・黒い本」の女編集長(美人)から「死にモドキ」を捕まえ、それを使って一度死んで生き返って死後の世界をルポせよと依頼される。前金に目が眩んだ俺は、完全にクスリで頭が飛んでしまっている親友のエンドーとともに「死にモドキ」を探しに出かける。まずたった一つの手掛かりの、同じ件で行方知れずになっている真島というカメラマンを探し始める。「死にモドキ」を探す旅で、SM嬢でリストカットマニアのサヨコと知り合い、見世物小屋の上半身しかない男から、死にモドキは昆虫であると聞く。上半身男というのが旧日本軍の軍服を着たアナクロ軍人で、かつての寺山修司のいかがわしき見世物世界を思わせる。

真島を探しているうちに、ホームレスの集まる無人島に行きつく。この上陸シーンが「地獄の黙示録」のパロディ。カメラマンの真島はさながらデニス・ホッパー。しかし何のためかほとんど意味がないのも妙に可笑しい。カーツ大佐みたいな師匠と呼ばれるホームレス老人から、「死にモドキ」のエキスは、むかし海女が海底から浮き上がる時に使っていたことがあることがわかる。そこで元海女のチュッパチャップスという飴玉売りの元海女の老女から、「死にモドキ」のいる森を聞き出し、ついに捕獲に成功する。肝心の「死にモドキ」は、「亀は意外と」の亀の甲羅に緑のペンキと同様、今回もカナブンの羽根に骸骨を描いただけという何ともチープなシロモノだ。虫の名前なら「シニモドキ」とすべきだが。

要するにふざけた世界なのである。「死にモドキ」のエキスを飲んで死後の世界を体感し、息を吹き返し、生きていることの喜びを実感するのだが、そこに何かしらの寓意は見いだせない。ただふざけただけで世界が成立するかと言うとそんなことはなく、しかし、ここではその世界がちゃんと成立しているわけだから、寓意がないのが寓意になっているとでも言うしかない。

「俺」を演ずる伊勢谷友介は、コメディは初めてのようだが、フットワークはかなりいい。「豚と軍艦」の頃の長門裕之に時に似ているエンドーの松尾スズキはキャラクターそのままという感じのチャランポラン。サヨコの菊池凛子は「バベル」とは打って変った演技で、その軽さが面白かった。最高だったのは、「亀は意外と速く泳ぐ」に続いての、岩松 了とふせ えりコンビで、今回はヤクザの兄貴と舎弟の関係だが、ふせ えりはチョロリと呼ばれるどこから声を出しているのかわからない性別不明のチンピラ。

出てくる人間たちはまるでコメディ版「ツイン・ピークス」で、こういうのはTVでやると作為的過ぎるだろうが、映画ではむしろキャラクターが立ち上がって、さながらどこまで奇妙奇天烈な人物が描けるかといった人物図鑑のようである。そういう意味では、彼らは「図鑑に載っている」わけだ。美人編集長は下痢してオナラばかりしているし、酔ったエンドーは吐いたゲロでピザを作ってしまったり、サヨコのリストカットした無数の手首の傷のギザギザでワサビをおろしたり、ボールいっぱいのイカの塩辛をぶちまけて、ニコラス・ケイジの顔にしてみたり、かなりエゲツない話も盛りだくさん。かなり重要な役割をするのだろうなと思われる人物が途中からいなくなってしまうなどの構成上の破たんも含めて、彼らの迷宮的世界の中を、散々に引っ張り回される。が、笑える。


 ●監督◎三木 聡
 ●脚本◎三木 聡
 ●音楽◎坂口 修
 ●主演◎伊勢谷友介
 ●共演◎松尾スズキ 菊池凛子 松重 豊 水野美紀 岩松 了 ふせ えり 三谷昇 佐々木すみ江
    
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