バンテージ・ポイント

日付:

2008.03.22

これだけ盛りだくさんで上映時間1時間30分にまとまっているのは立派である。練られて無駄がない。近頃この時間でキッチリまとめた映画は珍しい。映画とは時間の演出という面が多分にあるアートなのだから、いたずらに大作感を出そうとするあまり長ければ良いというわけではない。潔いつくり方だ。

映画のチラシやHPの惹句が間違っているので訂正すると、大統領を狙撃したのは「1発」ではなく2発の弾丸である。「目撃者は8人」ではなく、目撃者は会場に集まった群衆全員である。その中の8人の視点で狙撃事件が描かれるのである。彼らが見たものは「それぞれ食い違って」はおらず、ただ一つのものを違った視点(バンテージ・ポイント)で見ているのである。読んだだけでは「藪の中(羅生門)」のような印象を与えるがそうではない。映画の出来の良さにもかかわらず、その扱われ方において幸福とは言えない映画だ。

テロ撲滅の国際サミットが開かれるスペインのサラマンカの広場。この地はトレドやグラナダとともに歴史的にイスラム教とキリスト教文化が共存した地で、現在のテロ戦争の構図からいえばサミット会場にふさわしい場所である。アメリカ大統領アシュトンが開会の演説を始めた直後に狙撃され、会場に持ち込まれた爆弾が爆発し大混乱に陥ってしまう。

暗殺現場にたまたま居合わせた群衆のなかの見知らぬ8人。シークレットサービスの同僚、傷心の旅行者、テロリストの同志、地元の刑事など彼らの視点でその瞬間が8通りにフィードバックされる。その8人が知らず知らずに微妙なかたちで暗殺に関わって、その後は一気に全てを飲み込んでのクライマックスに雪崩れ込んでいく。テロリストの目的が暗殺でなく大統領誘拐だったという意外な展開も見えてくるストーリー展開は圧巻で、ラストの(「ジェイソン・ボーン」シリーズみたいな)カーチェイスの見事な迫力も加わって息も継げない。この監督テレビ畑みたいだが、なかなかやる。

いわゆる社会派映画ではないものの、アメリカ大統領が今のB大統領のような武闘派ではなく、あくまで対話路線を民主主義の信条としているのは、今のアメリカの大国主義への皮肉が効いている。またシークレットサービスの同僚が実はテロリストの仲間だったりして、世界の病根としてのテロリズムの根の深さを考えさせるものになっている。

屋外で、しかも狙撃にうってつけの建物に囲まれた広場で、上記のような歴史的意味はあるのだろうが、世界の要人が一堂に会するサミットの開催を白昼堂々行うというのは、セキュリティ上実に不用心なことだと観終わってから思いついたが、こんなことは不問に付そう。

ちょっと残念なのは、エイリアン女優シガーニー・ウィーバーだ。TV中継の現場チーフとしては無残なほどに老け、映画の展開にはほとんど絡まない特別出演みたいなもの。大統領夫人として登場した方がまだ良かった。

 字幕・松浦美奈


 ●監督◎ピート・トラヴィス
 ●脚本◎ヴァリー・L・レヴィ
 ●音楽◎アトリ・オーヴァーソン
 ●主演◎デニス・クエイド
 ●共演◎マシュー・フォックス フォレスト・ウィッテカー シガーニー・ウィーバー ウィリアム・ハート サイード・タグマウィ
 エドガー・ラミレス アイェレット・ゾラー エドワルド・ノリエガ
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