ボーン・アルティメイタム

日付:

2007.11.17

 全編追跡また追跡の映画である。モスクワ(前作からの続き)、パリ、ロンドン、マドリッド、タンジールそしてニューヨーク。野に放たれた暗殺者ジェイソン・ボーンが、喪失した自分の過去を探す、走りっぱなしのシリーズ最終作。タイトルの” ULTIMATUM”は最終通告という意味だ。主役のマット・デイモンの引き締まったアクションが魅力のこのシリーズ、いよいよ最終章でCIA本部に乗り込み、自分を変えた極秘作戦の全容を暴くことになる。

ロンドンの駅の雑踏での追跡劇がまず圧巻である。発達した情報社会に身をさらす者は、一度ターゲットにされてしまうと恐ろしいことになる。監視テクノロジーの発達によって、もはや個人情報は世界中の路傍に落ちており、それを拾う権力(組織)と資金(設備)があれば探知できないことは無いかのようである。張り巡らされたネットワークで、携帯電話を使えばたちどころに人物、位置、会話内容が特定・捕捉されてしまうのである。未来社会の話のようでもあるが、もはや現実なのであろう。怖いような話である。個人はテクノロジーに完全に蹂躙されている。

トレッドストーン作戦からブラックブライアー作戦にアップグレードされた極秘作戦の全貌は、反アメリカ的な人間は、自国民であろうがみんな殺そうというもので、その暗殺者になるために人格を改造されたのがジェイソン・ボーンなのであった。計画の立案者の博士を名優アルバート・フィニーがやっている。だが、ここは保守系の大物チャールトン・ヘストンあたりを持ってきて、個人と国家を巡ってがっぷり四つに組んで対決して欲しかったが、最終目的にしては意外にあっさりしている。

ボーンはあまりに完璧な工作員で、マシンとかモンスターといった形容がふさわしい。状況判断、駆け引き、行動力など全てに抜かりがなさ過ぎる。スパイものに付き物の女情報部員との色恋沙汰もない。平面顔のジュリア・スタイルズ演じるニッキーという女性がいるが、ボーンはそれどころじゃないらしい。彼の精神・肉体同様、余計な贅肉は付いていない。しかし良く考えるとかなりご都合主義であったりはする。例えばCIA本部に忍び込みブラックブライアー作戦の全貌を記されたファイルを手に入れてしまうところなどはどうやって忍び込んだのかわからない。

モロッコ(タンジール)の市街をCIAの殺し屋(イスラム系)に追われ、というより一緒になって窓から窓へと飛び移り、白昼堂々民家をメチャクチャに破壊していく(なぜか室内はほとんど無人である、どうぞ暴れてくださいってことなのか)。この追跡肉弾戦は、アクションとしての際だった素晴らしさとは裏腹にあまり愉快ではなかった。イスラムという異教の迷路を、モロッコという異国の迷路に置き換えてしまっているように感じるのだ。

異国・異教の民衆の生活に文字通り土足で踏み込みかき回すような無神経な態度は、「007」映画ならともかく、異色の9.11映画「ユナイテッド93」をつくった監督としてはどうなのだろう。いくら娯楽映画だとはいえ、もう少し配慮があるべきではないか。観る側も、こういう乱暴狼藉シーンで簡単にアメリカ(主人公)側に立ち、その破壊にカタルシスを感じることに何の疑問も持たないのはもう止めにしたいものだ。

これに対しニューヨークでのカーチェイスは、文句なく凄いの一言。ちょっと例をみない。どうやって撮ったのかと思うほどだ。自国に裏切られた自国民が、自国で暴れまわるのだから、ここはどんどんやってくれて構わない(笑)。極上の臨場感。手持ちカメラ(なのか?)の激しく揺れる映像は、深作欣二の「仁義なき戦い」をさらに洗練させたよう。前作の「スプレマシー」ではあまりにも映像の揺れが激しく、何がどうなっているのかわからない場面もあったが、今回はそれも反省(?)されている。

字幕・戸田奈津子


 ●監督◎ポール・グリーンフィールド
 ●原作◎ロバート・ラドラム
 ●脚本◎トニー・ギルロイ スコット・Z・バーンズ ジョージ・ノルフィ
 ●音楽◎ジョン・パウエル
 ●主演◎マット・デイモン
 ●共演◎ジュリア・スタイルズ ジョアン・アレン デヴィッド・ストラザーン アルバート・フィニー 
    
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