シッコ/SiCKO

日付:

2008.05.29

「グッドナイト&グッドラック」というマッカーシー旋風の只中で報道の自由を守ったキャスターの映画(監督ジョージ・クルーニー)を見て思ったのだが、あの主人公が守りたかったのは、あくまで報道の自由でそれは共産主義という思想を含めてのことではなかった。主人公にとっても共産主義は悪だったのだ。ただ個人の自由が赤狩りによって侵されることに抵抗したのだ。それはそれで素晴らしいのだが、アメリカ人は、よほど共産主義あるいは社会主義が嫌いなようだ。資本主義が発展して蓄積された社会的富を社会に公平に分配しようという思想がなぜいけないのだろうか。

この映画でも描かれるが、かつての大統領夫人ヒラリー・クリントンが進めた国民皆保険という考え方について、社会主義的だとして拒否反応(もちろん資本家の間で)が起きる。資本家(民間保険会社)と政治家は完全に癒着していて、そのような制度を許さない。この映画では、カナダ、イギリス、フランスは「天国」である。すくなくとも医療に関しては。となりの社会主義国キューバも極楽である。アメリカでは病気になったら、基本的人権は保障されない。民間保険会社が最低限の医療行為しか認めないからである。傷病と闘う前に保険会社と闘わなければならないという、笑うに笑えないカフカ的状況に置かれている。

発展途上国ならいざ知らず、世界第一の大国である。よく国民が黙っているものだと思う。反乱がおきないのが不思議なくらいだ。イギリスの医療担当者がインタヴューに答えて曰く、「イギリスの政治家は国民を恐れているが、アメリカは逆だ。」そのような従順さが普段の「お行い」からしてアメリカ国民にあるとは思えないのだが。自国に対しては従順なのだろうか。たしか前作「華氏119」でもそんなことをいっていた。ニクソン政権以来、それで国民が納得しているなら、制度上の欠陥というより国民性によるのかも知れない。

この映画が言っていることが本当なら、政治家は国民に対して恥ずかしくないのだろうか。“SHAME ON YOU!”彼らは(ある階層の)国民を利用するだけ利用して、利益を資本家に誘導しているだけに見えてくる。すべてを食いつくす民間資本主導主義。シッコ(SCKO)とはビョーキという意味のようだが、(どうして“SCKO”ではないのだろう)病巣はこのあたりにあるのではないか。「ダーウィンの悪夢」のアメリカ版とでもいうべきだ。

()食足りて礼節を知る」というよりも()食足りて礼節を知る」。医の荒廃は社会をも荒廃させる。衣食住ならぬ医食住。最近では「住」の方もサブプライムローン問題で、アメリカはガタガタになっている。医療福祉という科学の恩恵が、手の届くところにあっても手にすることができないのでは、文明や文化の使い道が間違っている。

監督の突撃取材は、矛盾をどこまでも斬り込み、カメラを自由自在に駆使した饒舌体は「華氏119」同様健在だが、「天国」であるはずのカナダ、イギリス、フランスそしてキューバも社会問題としての医療は、財政的に見ればかなり問題があるはずで、そこのところを不問にして礼賛しているのはちょっと腑に落ちない。この映画は町おこしNPOの自主上映により、市の勤労福祉会館にて上映された。


 ●監督◎マイケル・ムーア
 ●脚本◎マイケル・ムーア
 ●主演◎ドキュメンタリー レポーター:マイケル・ムーア
    
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