椿三十郎

日付:

2007.12.07

 1962年の黒澤明監督「椿三十郎」を森田芳光監督で2007年に再映画化。脚本は黒澤、菊島隆三、小国英雄のものをそのまま使って。これに何か意味があるのかと考えるのだが、何も浮かばない。椿三十郎というリーダー像を現代に再認識しようとするなら、オリジナルの脚本を使うわけはないし。そもそもリメークに意味を感じない。しかし話題作であることはもちろんである。単に最近のハリウッド同様、企画枯渇状態なだけかもしれない。

月とスッポンであることは想像がつくのだが、確認したかったのは、どの程度のスッポンか、ということである。脚本はそのままだが、配役はそうはいかない。三船敏郎の椿に織田裕二。仲代達矢の室戸半兵衛に豊川悦司、加山雄三の若侍井坂伊織に松本ケンイチである。もちろん(黒澤)映画ファンでなければ、独立した一本として観てしまうだろうが、ファンであればそういう見方はできないだろう。比較することによって評価されるしかない映画となるのは止むを得ない。

 まず、キャスティングの面白さでわれわれファンを納得させなければならない。現存する当時の配役で、仲代達矢、加山雄三、田中邦衛、小林桂樹はゲスト出演して欲しかった。特に田中は藤原釜足のやった悪役など適役だと思うのだが、黒澤色を払拭したかったのかもしれない。はっきり言ってしまうと椿に織田裕二では勘碌不足だ。目玉ギョロギョロの織田は飄々泰然というより野心を秘めたギラギラを感じてしまう。原田芳雄が若かったらと今更ながら残念に思う。入江たか子のやった万事におっとりした城代家老夫人は、苦労が顔に出ている中村玉緒ではダメで、ここは八千草薫でなければならない。まぁしかし、無難といえば無難な配役で納得はしないが、失望もしない。

 織田裕二のセリフの発音は三船独特の歯を剥き出した発声を意識し過ぎているのか、それで手一杯といった感じで、これが時にかなり耳触りである。三船の場合はアウトサイダーでありながら型破りな指導者、若侍たちにとっては父性を感じさせる存在であったが、織田にはそういう余裕は出ていなかった。9人の若侍たちは、松本ケンイチ以外は新人のようだが、演技がマンガ的過ぎて可笑しいところもかえって笑えない。次席家老黒藤以下悪役3人組にもそれは言える。戯画的過ぎて、陰謀を企む悪知恵者というより愚か者にしか見えない。

 さて、注目のラストである。ここではさすがに森田監督の創意が出ている。そもそもオリジナルの脚本自体が、ここは(凄過ぎて)文章では表現できない、と書かれているのである。それだけにどう撮ろうとも許されるのだ。三十郎と室戸のオリジナル対決での太刀を抜いた一閃の血潮の奔流とは逆に、森田監督はいかに互いの刀を抜かせないかで見せる。見せようとする。両者組み合ったままどうなっているのかわからない。このわからないところがなかなかいい。しかし、ここまで。

次の瞬間、2人の動きをスローモーションで見せてしまった。なぜスローでわざわざ説明するのか。生死を懸けた唯一度の真剣勝負の意味がないじゃないか。せっかく独創のラストになると感じたのに、まったく余計な事をするものだ(怒)。描写に対する自信の無さが表れてしまっている。それとももったいなくて(?)じっくり見せたのか。単なる通俗作品となるか、その上のものになるかの別れ道はこういうところにある。


 ●監督◎森田芳光
 ●脚本◎黒澤明 菊島隆三 小国英雄
 ●音楽◎大島ミチル
 ●主演◎織田裕二
 ●共演◎豊川悦司 松本ケンイチ 佐々木蔵之介 風間杜夫 西岡徳馬 小林稔侍 中村玉緒 鈴木杏 藤田まこと
    
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