ハッピーフィート

日付: 2007.03.20&24

 予告編がすでに傑作だった。去年の夏ごろに観たのだが、年が明けてやっとこ公開された。予告編から受けた期待を全く裏切らない。ペンギンはそもそもその存在自体アニメ向きなのである。ヨチヨチ歩きのデフォルメされたユーモラスな姿態、空を飛ぶことを止め、氷の上と海の中で過ごすフワフワで奇妙なカワイイ鳥。彼らが事もあろうにタップダンスを踊るというアイデアの素晴らしさ。北野 武監督の「座頭市」の下駄のタップダンスも圧巻だったが、これはもう全てのスケールが圧倒的。

皇帝ペンギンのマンブルは音痴で、ペンギン同士の言葉である“ハートソング”を歌えない。ペンギン界の食糧危機を、群れの調和を乱した自分のせいにされ、国を追われてしまう。不漁の原因を探し出す旅をするマンブルの「旅の仲間」、アデリーペンギンの5人組、イワトビペンギンのインチキ教祖ラブレイスがとにかくおかしい。ロビン・ウィリアムスらのスタンダップコメディ的な変幻自在の絶妙な吹き替え(注1)もノリノリで実にCOOL&POSITIVE

ペンギン版「ロード・オブ・ザ・リング」といった感じさえある。マンブルの声は「ロード・・・」のフロド役イライジャ・ウッドなのであながち間違いとはいえないであろう。ちなみにマンブルの母親、セクシー・ウォークの“ノーマ・ジーン”は、マリリン・モンローの本名である。啼き声(歌)でつがいなるかを決める。極寒の内地でオスが卵を温め、メスは100キロも魚を求めて海へ移動し、お腹に餌を貯めて帰ってくる。それまでオスは卵と共に何ヶ月も絶食状態でハドル(ペンギンたちが何重にも円陣を組み、互いの体温で寒さを凌ぐこと)を組み待ち続ける。・・・など、ペンギンの驚くべき生態にかなり忠実であるのも感心する。

ペンギン・タップダンスの壮観、圧巻、大俯瞰。ペンギンたちの大群衆が一羽として同じ動作をしていない。風に震える羽毛まで再現する呆れるほどの密度で迫る圧倒的物量感と躍動のスペクタクル。まさにダンスの大津波。一羽の落ちこぼれのペンギンが、人間を含めた世界をダンスによって最高にハッピーしてしまう奇跡の物語。ダンスという全ての垣根を越えたハートフルなランゲージで、世界を変えてしまう一大ファンタジー。

人類は万物に君臨するという偏った論理を、環境問題を語ることによってスレスレで回避できている。有史以来の基本的な価値とは何か?それは「ハッピー」なのだ。ペンギンも人類も。これならアル・ゴア(注2)も「都合のよい真実」として納得するだろう。
OH!BABY、RIGHT ON!

第79回アカデミー長編アニメーション賞受賞作品なのだが、監督はあの殺伐とした世紀末バトルアクション「マッドマックス」シリーズのジョージ・ミラー。30年あまりの時を経て、このようなハッピーな映画を構想し作り上げようとはとても意外である。アニメの枠を超えて作品賞にも監督賞にも無理なく当てはまる映画である。M・スコセッシや「ディパーテッド」の受賞よりずっと価値がある。

 字幕・稲田嵯裕里 & 吹き替え版


(注1)【日本語吹き替え版】は、悪くはないが、やはりミュージカル場面ではちょっと苦しい。英語のリズムと歌や音楽は自然に連動しているように感じるが、セリフを日本語に吹き替えてしまうと、セリフと歌のつながり方が自然でなく、その度にブレーキが掛ったように感じられ、この映画の面白さを半分も伝えていないように思われる。特にロビン・ウィリアムスの英語のセリフは、ほとんどラップミュージックで、その独特のリズムと言い回しは日本語に置き換えてしまうと面白くも何ともないものになってしまう。
(注2)第79回アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞の地球環境問題告発映画「不都合な真実」。監督ディビス・グッケンハイム、アル・ゴア出演。

 ●監督・製作◎ジョージ・ミラー
 ●アニメ・ディレクター◎ダニエル・ジャネット
 ●脚本◎ジョージ・ミラー ジョン・コリー ジュディ・モリス ウォーレン・コールマン
 ●音楽◎ジョン・パウエル
 ●振付◎セイヴィオン・グローバー ケリー・アビー
 ●(声)主演◎イライジャ・ウッド(手越祐也)
 ●(声)共演◎ロビン・ウィリアムス(ブラザー・トム) ニコール・キッドマン(冬馬由美) ヒュー・ジャックマン(てらそままさき)
 ◎ブリタニー・マーフィー(園崎未恵) ヒューゴ・ウィービング(水野龍司) 


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