どろろ

日付: 2007.01.29

 死体が夥しく横たわる戦いの果て。赤備えあかぞなえの鎧武者たちが原野を徘徊する様は、まさしく黒澤明の「影武者」、「乱」の世界。もっとも、黒澤監督の長女黒澤和子が衣装デザインを担当しているのだから似ていても黒澤公認なのだろう。
 原作は手塚治虫のマンガ。戦乱孤児の泥棒のどろろと父親の野望のために48体の魔物に体を奪われた百鬼丸が、自分の体を取り戻す魔物退治の旅を描くもの。個人的には理想的なキャスティングは、百鬼丸にオダギリ・ジョーである。どろろ…はちょっと思い浮かばない。というわけで、現実には百鬼丸に妻夫木聡、どろろはなんと柴崎コウとなった。妻夫木は一応「手塚顔」なので良いとしても、柴崎では少年ではなくもろに女ではないか。おそらく、少年だと思っていたのが、実は少女だったといういかにも手塚好みの原作の設定は、実写では無理だと考えたのだろう。
 戦国時代ではなく架空の戦乱の時代に舞台を移したことにより、時代劇というよりもマンガ以上に荒唐無稽なマカロニ・ウエスタン調無国籍アクション映画となった。粒子の粗い映像と赤や黒を多用した色彩の激しさで、出だしはなかなか面白い。しかし、エピソードか進むにつれ、単なる怪獣退治めいた安直な部分もかなり目に付き、「怪獣映画でR12指定かよ」とも思えた。たとえば蛾の妖怪(鯖目夫人)のエピソードの一部はもろに「エイリアン」だし、こどもたちの魂が合体した妖怪や蛾の妖虫たちの造形はヌイグルミさながらでガッカリさせられた。
 百鬼丸の父醍醐景光役の中井貴一は、ダース・ベイダーみたいな悪役として、堂々たる貫禄を見せて、これは意外だった。父と子の相克のドラマとして、後半は両者の宿命の対決になるのだが、「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーの戦いと結末を思い出した。全編を通して見れば、人間の宿命とか業をもっと表に出した演出があってよかったのではないか。せっかくのR12指定なのだから遠慮はいらない。
 ついでに言えば、自分の肉体を魔物から取り戻した時の喜びや衝撃、自分の肉体感覚としての表現がありきたりなのは映像作品としてもったいないと思う。目(視覚)、耳(聴覚)や喉(音声)などは映画的要素そのものなのだから、人間としての感覚を初めて得て、ただ喜ぶだけではなくて、もっと映像的な表現方法があったように思う。


 ●監督◎塩田明彦
 ●原作◎手塚治虫
 ●脚本◎塩田明彦 NAKA雅MURA
 ●アクション監督◎チン・シウトン
 ●音楽◎安川午朗 福岡ユタカ
 ●主演◎妻夫木聡 柴崎コウ
 ●共演◎中井貴一 瑛太 中村嘉葎雄 原田芳雄 原田美枝子 杉本哲太 土屋アンナ

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