SUKIYAKI WESERN ジャンゴ

日付:

2007.09.22

何もかも無視して滅茶苦茶な設定の話を大真面目に映画にしてしまおう、という構想は実にアッパレな心意気であることは認めよう。思えばマカロニ(スパゲティ)・ウェスタンもこのような生い立ちを持った異形のドラマだったのだろう。そのマカロニの「続・荒野の用心棒」(監督セルジオ・コルブッチ)から“ジャンゴ”なる名前を拝借している。「荒野の用心棒」(監督セルジオ・レオーネ)ではないところが、この映画の外道精神を表わしている。

荒野の用心棒」は黒澤 明の「用心棒」の翻案であって、その出生は“一応”由緒正しいものがある。それに引き換え「続・荒野のー」は、実際は「荒野のー」の正規な続編ではなく、監督が同じセルジオだからでもあるまいが、配給会社が勝手につけた邦題で、「荒野のー」のヒットにあやかった臆面もないB級丸出しのタイトルなのである。この出生の不幸を逆手に取ろうという魂胆と見たがどうか。日本でウエスタンをやろうというのだから、時代はいつだかわからない。そして不思議なことに、セリフは全編英語なのである。

ピリンゴなる拳銃の名手が登場。追っ手を倒し、なぜかスキヤキを食べるというナンセンスなオープニング。演ずるのは「キル・ビル」の監督クエンティン・タランティーノ。そこで後に「血塗れ弁天」(ブラディ・ベンテン)と異名をとることになる1人の女と出合う。2人の間には子供が出来て、名をアキラと名付ける(もちろん黒澤 明に因んでいる)。時は流れて・・・。

1人の流れ者が、ある村に流れつく。そこは、平家の埋蔵金を狙って、源氏の末裔と平家の末裔が敵対する村だった。流れ者の腕を見た両軍は、彼を自分の用心棒に引き入れようとし、流れ者は両軍を行ったり来たりして、・・・という話には、これがならない。そうなっては「荒野の用心棒」あるいは「用心棒」と同じなのだ。しかし、そうできないところが、この映画に最後まで不発な感じを抱かせる。登場人物は、棺桶屋が見当たらない他は、居酒屋の親爺が女になっていたりするものの、ほとんどそのままと言っていい。

客演の“マスター・オブ・バイオレンス”クエンティン・タランティーノの物語作りをかなり意識しているように思われる。夫アキラを平家の首領清盛に無残に殺された女静(=静御前)が、源氏の首領義経の妾になるという「キル・ビル」並みの過剰な残酷性・悲劇性(惨殺される夫の名前がアキラというのは、クロサワの「用心棒」に対する決別注1)をあらわしている?)、居酒屋の女将が実はブラディ・ベンテン注2)という伝説のガンマンでやたら強いとか、そのブラディ・ベンテンの語り草になったガン・ファイトシーンはアニメになっているとか、である。

それに比べて、主人公であるはずの流れ者のガンマンは、どうも活躍の場がない感じで、モタモタして精彩がない。雰囲気だけはあるのだが、最後まで何を考えているのかハッキリしないからである。途中まで何を考えているのかわからないのはいいのだが、最後までわからないのはやはり困る。ラストでガン・ファイトはそれなりに用意されてはいるものの、2階から馬に飛び乗るシーンはワンカットでやってもらわなければ興醒めだ。

粒子の荒れた極彩色の映像と美術、音響の迫力、特異な婆娑羅的ともいえる設定で前半は見せるのだが、後半になって映画がもたなくなる。源氏と平家の争いが進展に乏しく、戦いもどことなく具体性に欠ける。ただ仲が悪いだけのようにさえ思えてしまう。平家の埋蔵金というのがどうでもいいようにしか描かれないせいもあるだろう。たとえば「続・夕陽のガンマン」における埋蔵金の争奪戦のような、ギラギラした執念がここでは感じられない。

ジャンゴ」とは、実は源氏の女静と平家の男アキラとの間に出来た子供の名前で、彼が長じて「イタリア」に渡り、さすらいのガンマンになるのだという。西部劇の本来の舞台であるはずのアメリカやメキシコにではなく、マカロニ・ウエスタンがつくられたイタリアに渡るのである。このことからもマカロニ・ウエスタンそのものに捧げる形(スタイル)で、一種の映画的伝説を語ろうとしたのは良くわかるし、成功すればかなり壮大なパロディ映画となるはずであったが、スタイルにこだわり過ぎて、肝心の中身が薄れてしまった。


(注1)父であるピリンゴが「ワシは日本アニメのオタクだ」と楽屋落ちを言っているので、アキラは大友克洋の「アキラ」かもしれないが。
(注2)「キル・ビル」の血塗れの花嫁(ブラディ・ブライド)は頭文字はB・B。ブラディ・ベンテンも頭文字はB・Bだ。

 ●監督◎三池崇史
 ●脚本◎NAKA雅MURA 三池崇史 
 ●音楽◎遠藤浩二
 ●主演◎伊藤英明
 ●共演◎佐藤浩市 伊勢谷友介 木村佳乃 小栗 旬 桃井かおり 香川照之 クエンティン・タランティーノ
    
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