ディパーテッド

日付: 2007.02.02

 「THE DEPARTED」とは、「死体」の意味。この映画の原典は香港映画「インファナル・アフェア」である。こちらは「酷い出来事」というくらいの意味。マーティン・スコセッシ監督によるハリウッドリメーク版。マフィア映画は基本的に嫌いなので、スコセッシの映画のファンでもない。が、この題材の面白さはリメークされて当然だし、この香港映画をどうリメークするのか興味はあったのだ。
 アメリカン・ギャングといえば、その出自はおきまりの人種問題である。ここでもそれは同じ。マフィアでもイタリア系でなくアイルランド系である。マサチューセッツ州のアイルランド・マフィア対州警察・特別捜査班(SIU)の攻防が舞台。警察学校からマフィアに潜入した男(ビリー)とマフィアから警察学校に入りSIUに潜入した男(コリン)の偽りの人生が絡み合う。両組織から「ネズミ」と呼ばれる2人の潜入者は、組織の中枢にまで出世して行き、情報を互いの組織にリークし続ける。
 運命的に破局に向かわざるを得ない2人を交互に描いてゆくのだが、特に潜入捜査官ビリーの追われる側であり、同時に追う側でもあるというストレスは深刻で、精神科の女医に相談するようになる。コリンはまっとうな出会い方で同じ女医と恋愛関係になる。ここでコリンとビリーは、警察関係担当の精神科の女医マデリンと、お互い同士は知る由もなく3角関係になる。
 中盤から自分の正体がバレそうになるサスペンスが盛り上がってくるはずなのだが、ネズミは両組織ともども彼ら1匹づつではないのが分かってくる。潜入捜査官とは知らずに、警察仲間に撃たれて死んでしまったりするのである。不思議に思うのは、ネズミ同士が狭いところにそんなに多くては、共食いも止むを得なくなるということだ。これは2人の正体が割れた場面でのどんでん返しにも絡んでくるのだが、前もってネズミが潜入しているのならビリーやコリンの潜入にあまり意味があったとは思えなくなる。先に潜入している彼らだって情報は流しているだろうから。このアイルランド・マフィアのボスは自分で取り立てをやったりして、組織的な規模があまり大きそうに見えないので余計そう思えるのだ。
 SIUでビリー担当であるのディグナムは、上司のクイーナンの死によって、自らあっさり担当をはずれしてしまうが、まだ生きていることには変わりがなく、マフィア壊滅後コリン絡みでビリーが死んだとなれば、今や彼だけが潜入捜査官はビリーであったことを知っている人間なのだから、最後にコリンがああいう結末になっても無理はない。彼は(または映画は)なぜディグナムをそのままにしておいたのだろうか。彼を放置しておいたことで、映画はあのラストにするしかなくなったともいえる。あのラストにするために作り出したキャラクターともいえるのだが、唐突感は否めない。
 ビリーとも関係を持った精神科医のマドリンは(惹かれるぐらいなら分かるが、肉体関係までどうして持ってしまうのか理解できないが)、ビリーの身に何かあったら読むように、身分を明かした封筒を渡されている。ビリーが死んだ時点で、マドリンによって、元恋人であるコリンの正体が暴かれるのは、これまた当然の成り行きではないだろうか。その重要な封筒が机の引き出しにしまわれたまま使われないのは腑に落ちない。
 偽りの人生は死によってしか贖われないとでもいいたいような最悪なラストだが、その偽りこそが身を守る唯一つの方法であり、真実が暴かれたときには、破滅しかないということにあまり悩んでいるように見えないのが難点。神なき土地で、人間同士のインファナルな契約に縛られ操られた男たちが、無意味無残に死んでゆく。出来たのは木偶人形のごとき死体の山である。さらにコリンについては、強引に偽りを真実にしてしまおうと(名実ともに正義の側に立ちたいという)、自らの運命に抗する悲願が見えてこない。ハードな展開だが人間の哀しみといったものが浮かんでこない分、原作映画より一歩後退している。
 150分の長尺を引っ張るスコセッシの腕力には感心するものの、スコセッシでなければならない映画とはいえず、バイオレンスには独特の感性の持ち主であるオリバー・ストーンやブライアン・デパルマが撮った方が、とも思った。巷間噂されるようなアカデミー賞有力作品とはとてもいえないと思う。


 ●監督◎マーティン・スコセッシ
 ●原作◎アンディ・ラウ アラン・マック 「インファナル・アフェア」より
 ●脚本◎ウィリアム・モナハン
 ●音楽◎ハワード・ショア
 ●主演◎レオナルド・デカプリオ マット・デイモン 
 ●共演◎ジャック・ニコルソン マーク・ウォールバーグ ヴェラ・ファミーガ 
 ◎マーティン・シーン アレック・ボールドウィン
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