デジャヴ

日付:2007.04.06


アルコール・タバコ・火器局(ATF)という官庁は初耳である。連邦政府の機関で、主人公ダグはそこの捜査官なのだが、おもに違法銃器・放火・爆発物を取り締まっているらしい。火器はわかるがアルコールとタバコは何を意味するのだろう。この機関は警察やFBIとどうやって住み分けているのだろうか。

未曾有のフェリー爆破テロ事件がニューオーリンズで発生し、彼の出動となる。彼は捜査途中に黒人女性クレア(ハル・ベリーかと思ったがポーラ・パットンという新人)の死体に遭遇する。彼女はフェリー爆破の被害者ではなく他殺死体だった。死体の彼女を美しいと思った彼は、(死体に魅せられるところは「ブラックダリア」を思わせるが、そういう話にはならない)爆破事件との関連を嗅ぎつけ身元を割り出す。彼女の車に爆薬が仕掛けられフェリーに置かれていたことを知る。ここから「タイム・ウィンドウ」なる政府極秘開発の“SFツール”、4日と6時間前にまで遡って実際の映像を見ることができるビジュアル・タイムマシンが登場する。FBIとともに、クレアの殺される4日前からの映像を見ながら犯人との関わりを捜査する。4日と6時間以内に犯人を特定できなければ、迷宮入り確実な事件なのだ。

爆破事件の前にタイム・ウィンドウを使って遡り、彼女の車を運転する犯人の過去映像をヘッドギアを着けて見ながら、実際に「現在」の道路を走り、犯人の「過去」を追跡するダグの究極の脇見運転は、傍から見ればただの狂気の暴走としか見えない。あげくは高速道路を無茶苦茶に逆走し、彼の無謀運転で何台も一般車が巻き添えを食って大破するがお構いなしである。反省もしないし、罪にも問われない。さすがテロ壊滅のためなら何でもありのアメリカである。

ダグを演っているのがデンゼル・ワシントンなので、彼の持ち味上さほど気にならないものの、常識的犯罪捜査行為から完全に逸脱している。ただこのカーチェイスやフェリー爆破の映像的シークエンスの見事さは大したもので、ただただ見せられてしまう。タイムマシンものが陥りがちな、いかにもSFチックな陳腐さがこの映画に感じられないのも、映像派のリドリーじゃなかったトニー・スコット監督のスタイリッシュな映像技巧の力業的成果といえる。

テロリストのオースタッドという自称愛国者の常軌を逸した狂気の描き方はかなり不十分で、なぜフェリー爆破事件を実行したのかが意味不明のまま残される。中途半端に理論武装させるより、動機不明のままの方がかえってリアリティがあっただろう。この映画は、ラストでハリケーン・カテリーナの被災者に献辞を送っている。ご当地ニューオーリンズのハリケーン被災との関連でもあればまた違った犯人像が生まれたかも知れない。

犯人を逮捕しながらも過去にタイムトラベルまでして、すでに殺されたクレアを過去において救い、フェリー爆破事件も未然に防ごうとするダグの行為は、過去改変にあたり、実現は不可能なのではないか。同一次元に同一人物が2人同時に存在し、将来に影響を及ぼす改変に加担する行動をとることはできないのではないか。しかし彼はここでも強引に、自分を犠牲にしてまでして、それをやり遂げてしまう。特にラストで「生きている」クレアが、爆破事件現場で「初対面の」捜査官ダグに遭遇するのは完全なパラドックスである。彼は”どこから”やって来た”彼”なのか。だが、それなりに練られた脚本だと思えたし、筋が通らないからダメだとはならないのが映画というものの面白さである。


 ●監督◎トニー・スコット
 ●脚本◎ビル・マーシリイ テリー・ロッシオ
 ●音楽◎ハリー・グレッソン=ウィリアムス
 ●主演◎デンゼル・ワシントン
 ●共演◎ヴァル・キルマー(この人太り過ぎ) ポーラ・パットン ブルース・グリーンウッド アダム・ゴールドバーグ
  ジム・ガヴィーゼル AS テロリスト 

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