ブラックサイト

日付:

2008.04.19

 原題は“UNTRACEABLE”で、つまり「追跡不能」。「ブラックサイト」は邦題である。インターネットの闇サイト専門のFBI特別捜査官ジェニファーは、夜勤でサイト監視中に、罠にはまった小猫の衰弱死を中継する“killwithme.com”というサイトを知る。愛猫家である彼女は不快に思うが、これが公開殺人の幕開けだった。次に映されたのは、地下室に拘束された人間だった。

殺人中継サイトにアクセスしただけでアクセス数が上昇し、殺人が実行される。だれもが中継される殺人の共犯者になってしまう殺人システム。自分とは無関係な人間に対して、何万人もの他人が引き鉄を引く。そこに良心の呵責はない。そして首謀者以外の共犯者を誰ひとり罪に問えない。人間社会を衆愚社会としか見ず、好奇な人間の醜さをことさらに増幅させるような犯罪の手口だ。全編に渡って暗いブルーを基調とした沈んだ映像は、インターネットサイトのライブ中継映像のようでザラザラした緊迫感が漂う。そして地下室は「羊たちの沈黙」以来、サイコ・キラーの砦である。

しかし、残念ながら犯人像は納得できるものではなかった。大学教授でうつ病の父親の自殺映像をネットで公開された息子が、それにメディア的に関わった人間たちを、次々に処刑しているのだ。無作為抽出の被害者ではなかった。やがて捜査側にも犯人は迫り、ジェニファーの相棒が犠牲になってしまう。要するにネット世界というのは理性の無法地帯であり、その匿名性によって人間の生死もキーボードや携帯のボタン一つで気楽に左右できてしまうと言いたいのだろう。そしてこの行為は誰にも止められないという不気味さ。

犯人が構築した殺人中継サイトの仕掛けは、あまりにも高度で専門的だ。このように高い知能を持ったひとりの人間が、果たしてここまでして露悪的な方法で復讐するかどうか。可能かどうか。理性と知性は釣り合わないことはままあるのだが、このような常軌を逸した犯罪にかける犯人の情熱に説得力はなかったと言わざるを得ない。あつらえ過ぎた犯人像だ。むしろ、次第に復讐よりも殺人行為自体に取りつかれていって自制できなくなるように描かれていれば、人間とネットの間に横たわる深い闇が浮かび上がっただろう。

「リトル・ロマンス」(1979年)の名子役ダイアン・レイン主演。さすがに老けたが、シガニー・ウィーバーのような老け方をしておらず、年相応の貫録といったものも感じる。昨今、独身で子供がいる女性は当たり前のように離婚しているものだが、ここでは夫は刑事で殉職しているというのは意外だ。個性の強い戦う女を強調せず、母親として家庭と仕事と両立させているところが好ましい。女性FBI捜査官といえばジョディ・フォスターが印象的なのだが、ダイアン・レインも地味ではあるがなかなか凛々しい。それにしてはこの映画のポスターの彼女の写真はイマイチである。

字幕・太田直子


 ●監督◎グレゴリー・ホブット
 ●脚本◎ロバート・フィヴォレント マーク・L・ブリンカー アリソン・バーネット
 ●音楽◎クリストファー・ヤング
 ●主演◎ダイアン・レイン
 ●共演◎ビリー・バーク コリン・ハンクス ジョゼフ・クロス ピーター・ルイス
    
映画見よう見まねへ戻る