相棒 -劇場版- 絶体絶命!東京ビッグシティマラソン42.195km

日付:

2008.06.06

同じ刑事ドラマ「踊る大捜査線」のようなテレビ発の劇場版である。「相棒」とは警視庁の離れ小島的部署「特命係」のたった2人の刑事杉下右京と亀山薫のコンビ。副題がマラソン並みに長い名前だ。しかし、このタイトルが映画の内容を言い当てているかというとどうも要領が悪いのである。海外日本人人質事件・チェス・都市マラソンの三題話を連続殺人事件とどうにか繋ぎ合せている感じだ。

「イラク日本人人質事件」(2004年)をモデルにしているらしいところは、小林政宏監督の「バッシング」を思わせる。但し「バッシング」と違うところは、南米某国難民の救援ボランティアをやっている若者が現地武装勢力に拉致されたあと、犯人側の要求が入れられないため予告通り射殺されてしまうところ。生還出来なかったのだ。こういう時のバッシングというのは、止めるのも聞かずに「好き好んで」戦闘地域に出向き、拉致されたあげく「生きて帰った時」に起こるんだろうと思う。

当時「自己責任」という言葉が流行り、人々はやっと「自分以外」に使う相手が現れたと直感し、迷うことなく使ったのである。しかし、本人が殺されてしまっては、直接叩く相手がいないわけだから、この期に及んで家族が(父は仕事も辞め、妹は名前まで変えるような)この映画のように激しいバッシングを浴びることにはならないのではないか。これが連続殺人事件の動機になっているので、そこに引っかかってしまった。つまりこの犯罪の成立には無理があるように思う。

連続殺人の手の込み過ぎた(手の混み過ぎた)手口の真相が明らかになるにつれて、なぜチェスの駒の動きを犯行予告の手段としようと思ったのか首を傾げざるを得なくなる。それになぜ3人も人を殺す必要があるのだろうか。結末を見てしまうと、「バッシング」より「ブラックサイト」に近い。要するにネット・マスコミ被害者による復讐譚だ。さらに問題なのは、捜査陣にチェスのかなりの知識のある人間がいなかったらこの(はんざい)は成立しないのではないのか。いってみれば犯罪そのものが、理詰め捜査の天才杉下右京のために用意されたものになってしまっている。(・・・彼以外のだれも解くことはできないほど特異で難しい事件という意味。捜査陣のあのメンツでは絶対無理!)刑事のために誂えた犯罪などというものは本末転倒なのである。しつこいほどのどんでん返しもかえって意表を突かない。

TVシリーズの良い視聴者ではないが、「刑事コロンボ」的な理詰めの展開で、頭の空っぽな刑事が腕力と人情で事件を強引に解決してゆく日本的「熱血」刑事ドラマとは一線を画しているのが特徴だろう。だが相棒たちを取り巻く同僚たちが、まったくTVのままなので「番組」拡大版としか思えない。「暇か?」が口癖の隣の課の課長や捜査一課の嫌味な刑事などは、何の工夫もないまま杉下と亀山の周りをうろつくだけで、TV同様の役割を果たしているに過ぎない。

豪勢に張りこんだキャスティングかもしれない西田敏行は近年、(思えば快作「ゲロッパ!」を最後に)その存在自体にほとんど迫力が無くなっており、(釣りの映画はもうやめた方がいい)ただの肥満体の老人で大学教授には見えないし、ましてやチェスの名手には全く不似合いだ。チェスが重要な役割をするので、これはひょっとしてあの「2001年宇宙の旅」のHALと宇宙飛行士のチェス場面をトリックに使っているのかなと思ったが、考えてみればこの映画は「踊る大捜査線」ではないのだった。平幹二朗の元総理は、髪型からいって明らかにイラク人質事件当時の総理大臣小泉純一郎を模しているなど、いろいろ考えてはいるようだが。


 ●監督◎和泉聖治
 ●脚本◎戸田山雅司
 ●音楽◎池頼広
 ●主演◎水谷豊 寺脇康文
 ●共演◎岸部一徳 木村佳乃 津川雅彦 本仮谷ユイカ 西田敏行 柏原崇 川原和久 六角精児
    
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