HIV感染症エイズ治療の新ガイドライン

今年7月のカナダ・バンクーヴァーのエイズ会議で提唱された抗HIV療法の新ガイドラインです。

オリジナルの論文は
Antiretroviral Therapy for HIV Infection in 1996
Recommendations of an International Panel
International AIDS Society-USA

日本語訳はHIV感染者発症予防治療に関する研究班で訳されたものです。


国際HlV感染症に対する抗レトロウイルス療法・1996年の見解

国際会議からの提言(JAM4A1996;276:146−154の和訳)

Charles C.J.Carpenter,M.D;Margaret A.Fisch1,M.D;Scott M.Hammer,M.D:Martin S.Hirsch,M.D;Donna M.Jacobsen;David A.Katzenstein,M.D;Julio S.G.Montaner,M.D:Douglas D.Richman,MD;Michael S.Saag,M.D;Robert T.Schooley,M.D;Melanie A.Thomopson,M.D;Stefano Vella,M.D;Patrick G.Yeni,M.D;Paul A.Volberding,M.D;for the lnternational AlDS SocietyUSA

From Brown University SchcoI of Medicine,Providence,RI(Dr Carpenter);the University of Miami(Fla)School of Medicine(Dr Fischl);Harvard Medical Schoo1,Boston,Mass(Drs Hammer and Hrsch);The lnternational AlDS SocietyUSA,SanFrancisco,Calif(Ms Jacobsen):Stanfofd(Cali)University Medical Center(DrKatzenstein);St Pau1's Hospita1,Vancouver,British Columbia(Dr Montaner);Univefsity of California San Diego,and San Diego Veterans Affairs Medical Center(Dr Richman);the University of Co1orado Schoo1of Medicine,Denver(Dr Schooley);AlDS Research Consortium of Atlanta(Ga)(Dr Thommpson);Istituto Superiore di Sanita,Rome,Italy(Dr Ve11a);Hopital BichatClaude Bernard,X.Bichat Medical School,Paris,Ffance(Dr Yeni);and the University of California San Francisco(Dr Volberding).

要旨目的:

本報の目的は、市販の抗レトロウイルス剤(1996年半ば現在)によるHIVV感染症治療に関し、臨床的なアドバイスを提供することにある。すなわち、抗レトロウイルス剤の投与開始時期、最初に選択すぺき抗レトロウイルス剤、投与中の抗レトロウイルス剤の切り替え時期、選択すぺき代督抗レトロウイルス剤などに関する臨床的アドバイスを提供する。

当会議のパネリスト:

国際的に著名なレトロウイルス研究者およびHlV感染症の専門家の中から、アメリカの国際AlDS学会が当会議のために13名のパネリストを選んだ。

本報の裏付けデータ:

HlV感染症の第3相比較試験成績、最新の臨床デ‐タ、最新のウイルス学的および免疫学的デー・タ、それらに関する中間データ、HIVVの病態生理学に関する研究成績、および当パネリストの専門的見解など。ただし、医薬品に関するパネリストの見解は、1996年半ぱまでに入手可能な医薬品に限定された。

本報作成のプロセス:

既出の疑問点に対しては、1名または複数のパネリストが合議のうえで的確な回答または提言を作成した。また、当パネルが提示した提言は、パネリスト全員の意見統一に基づいておこない(1996年1月まで)、さらに新規データによる提言の内容の訂正に際しては、全パネリストの意見統一に基づいて行った(1996年2月―5月)。

まとめ:

HIVの病因、血漿HIV‐RNAの測定方法、臨床試験ならびに新薬の生体内利用率などに関する最近の知見によれば、抗レトロウイルス剤による治療に関して新たなアプロ-チが求められている。例えば、抗レトロウイルス剤は、CD4陽性細胞数、血漿HIV‐RNAレべル、患者の臨床症状などに基づいて投与すべきである。第一選択薬としては、ヌクレオシド系製剤の併用療法が推奨される。プロテアーゼ阻害剤は現段階ではHlV感染症がさらに進行する危険がある患者に対して最も大きな適応があろう。また、HIV感染者に対する薬剤の治療効果が認められないとき、あるいは投与薬剤に対して耐性が認められたときには、治療法の再検討、投与薬剤の変更、病状の再確認、患者の背景因子の再検討、および薬剤の併用投与などを考慮すべきである。さらに本報では、初期(急性期)HlV感染に対する治療法、HlVに感染する危険性が高い爆露事故時の対応および母児間のHIV感染への対応などについても言及した。もちろんこれらの治療に関しては、今後次々と明らかにされる新知見をもとに絶えず改訂されていく必要がある。


はじめに

ヒト免疫不全ウイルス(HIV感染症の生物学的知見および治療法については、ここ1年半の間に大きな進歩がみられた。その桔果、HIV感染症に対する治療にあたり、より科学的に新しい治療法を選択できるようになった。本感染症領域における最近の進歩は次の4つに代表される。すなわち、(1)HIV感染症の各々の時期におけるHlV複製の動態の理解の進歩、(2)個々の患者におけるHIVウイルス量を決めるための定量法の開発、(3)いくつかの新しい有効な抗レトロウイルス剤の登場、(4)zidovudineの単独療法に比し、多剤併用療法がより効果的てある事実の判明である。HIV感染症に関して上述のような進歩がみられたため、以前の知識レべルをもとに作成されたガイドラインは、1996年現在、臨床的な判断をおこなう際には役に立たなくなった。そこで、HIV感染者の臨床的管理に関する新たな方式を提言する目的で、国際AlDS学会・USAにより、HIV感染症の専門家が選抜召集され、今回の国際会議のメンバ‐が構成された。当会議では、抗レトロウイルス剤による治療に関して次の4つを主要テーマとして取りあげた。すなわち、抗レトロウイルス剤の投与開始時期、最初に選択すべき投与薬剤、薬剤を変更する時期、変更時期における薬剤の選択である。それらのテーマに加え、当会議では初期HIV感染の治療、HlVの垂直感染の予防法、HlVに爆露後の感染予防法についても言及し、提言を試みた。本報により勧告された内容の裏付けデータとしては、注意深く設定された比較試験データの最終結果はもちろん、必ずしも最柊的な結論に至ってはいない試験の中間成績、ウイルス学および免疫学的新知見、さらにHIV感染症の病態生理学に関する補足的知見なども採用した。また本報の中で提示された臨床的判断は、現時点で使用可能な8種の抗レトロウイルス剤の治療成績、それら薬剤の併用投与(併用投与の組み合わせは限定されるが)による長期治療成績などに基づいておこなった。

血漿HIV‐RNA測定の意義に関しては、当パネリスト全員の同意を得た上で本報において以下のような提言をおこなった。すなわち、血漿HIVーRNAレベルを測定することによりHlV感染症の進展を予測することができ、また、併用投与によりおこなわれた最近の臨床試験成績によれば、血漿HIV‐RNAレベルが減少した例では生存者が増加し、AlDSへ進行する可能性が減少する。一方、本報で示した提言では特殊な状況下の患者を治療する際のアルゴリズムは示していない。その理由は、いろいろな状況に対応する単独の初期治療方式を決めるだけのデータがまだないからである。HIV感染症に関する薬剤併用投与による臨床データ、最近市販されたブロテアーゼ阻害剤による臨床データ等は今のところ数少ないものの、本報ではHIV感染症治療のための薬剤投与計画および治療戦略などにつき、1996年半ば現在において提供が可能な情報を当パネル会議からの勧告として提示する。

抗レトロウイルス剤を始める時の治療方式

背景

文献3に紹介されているように、HlV感染症のウイルス学的、免疫学的勤態は、最近の報告により明らかにされてきている。リンパ系組織では、感染初期から全経過を通じてHlVの高度の複製が継続していることが報告されている(4ー8)。 HIV感染者の血襲中に存在するHIVの約半数は数時間単位で置き換わる。すなわち、毎日数10億個のHIV粒子が生産され破壊されている(7−9)。 同じく、毎日数10億個のCD4細胞が生産され、破壊されている。初期感染の後に、HIV感染者のHIVウイルス複製率は、あるレべル(“set point”)に落ち看くが、そのレべルは患者一人一人で異なる。通常、HIV‐RNAは10〜10copies/mlの血漿中レべルで安定化し、無症状の患者では、比較的安定した状態が数カ月以上(晋通は数年間)にわたり持続する(10)。以上のことから言えば、血漿HlVーRNAを測定する意義は大きいものの、同時にHlV‐RNA測定値はあくまでも患者の生体内に存在するHlV総数を間接的に示すものに過ぎず、さらに、患者の生体内におけるHIVの複製は、主に血管外のリンパ系組繊において行われている事実にも留意すべきである。HIV感染症の特徴である免疫不全への進行に関与するのは、血漿中のHIVよりもリンパ組繊中のHIVの複製である。血漿中のHIV‐RNA量とリンパ系組織中のHIV量との間には、一定の比例関係が存在するようにも考えられるが、実際には血漿中のHIV‐RNA量は生体内の全HlV量を直接的に示すものではない.一方、HlV感染者におけるHlVのset pointは、本感染症の進展度、生存期間、さらには血漿中HIV‐RNAの増加などと密接な関遵性を示す。例えばまれな例であるが、HIV感染者の中には、長期にわたりHlV‐RNAが低レべルでCD4腸性綱胞数も正常値に近く、病状が長期間進行しない例が認められる.また、他の極端な例では、血漿中ウイルス量が著しく高値(HIV‐RNA〉50,000〜100,000copies/ml)で病状が進行する危険が著しく大きい例もある。血漿中のHIV‐RNA値のベイスラインと臨床的リスクとの関連性については、最近の臨床報告11〜14によっても確認されている。最近の2つの報告11.12によれぱ、調査対象のうちの1/4のHIV感染者の血漿HlV量は低値(HlV―RNAく5000copies/ml)を示したが、それらの感染者ではAlDSまたは死亡への進行宰が最も低率であった。一方、血漿HIV‐RNAレベルが30,000〜50,000copies/ml以上の感染者(対象患者の1/4がこのような高値を示した)は、HIV感染症の進行のリスクが最も大きかった(11,12)。また、HlV感染者のうち、無症侯性でCD4陽性細胞胞数が350/μl以上の患者では、CD4陽性綿胞数よりHlV‐RNAレベルの方が進行の予測因子としてすぐれていた(11,15)。CD4陽性綿胞数の測定値は、測定時期でのAIDS進展への危険性を示すひとつの指標に過ぎないので、CD4陽性細胞数のみでHIV感染症の進展を予測するには限界がある(16)。AIDS関連症侯群の臨床症状の発現がAIDSへの進行すなわち重症日和見感染症への罹患を強く予測する因子となる。最近まで、抗レトロウイルス剤の臨床試験の対象患者の選択基準は、主に薬剤投与前の症状および治療歴、薬剤投与開始時のCD4陽性細胞数などであった。重度および軽度の有症状HIV感染者ならびにCD4陽性組胞数が500/μl未満の無症侯性HIV感染者に対するzidovudineの単独投与は全殻的に有効であった(17−20)。一方、CD4陽性細胞数が500/μl以上のHIV感染者に対するzidovudineの単独投与は、CD4陽性細胞数の減少を抑制したものの、CD4陽性細胞数が500/μl以下で投薬を開始したHIV感染者と比べてAlDSへの進展阻止効果および患者の生存期間に関して有意差を認めなかった(21)。最近では、臨床所見とCD4陽性綿胞数などの最終的所見に加え、または、それらの所見の代わりにHIV‐RNAレべルを測定することにより、今までより少数の患者でもっと効果的な治験デザインを組むことができるようになった。これら血漿中HIV‐RNAレベルの測定値から、新たに得られた情報に基づき、無症侯性HIV感染者に対しても、より早期から強力に抗レトロウイルス剤を併用投与することが考慮されるようになった(11,12,22,28)。HIV感染者のHIV―RNAレベルを知ることは、患者の予後の推測や治療開始時期の決定に有用であるだけではなく、治療に対する反応を評価するためにも役立つ(次項を参照)。HIV‐RNAレべルの低下は、通常、治療開始あるいは薬剤変更後4過間以内に認められる。抗レトロウイルス剤の併用療法の中には、現在の検出法では測定不能な程度にまでHlV複製レべルを低下させるものもある。血漿中のHIV‐RNAレべルの変化と、リンパ組織中のHIV―RNAレべルの変化との相関に関する研究は、今のところ散見される程度であるが、それらの成績が示すところによれば、血漿中のHIV‐RNAレべルの変化はリンパ組織における変化を間接的ながら反映している(29,30)。血漿中HIV‐RNAレべルが、現在使用可能な測定法の検出限界まで減少した場合でも、患者のHIV‐RNAの全体的レべルが完全に抑制されたとは必ずしも言えない。HIV感染者では、1日あたり10〜1010個のウイルス粒子が生産されていると考えられているので、血漿中HIV―RNAが2〜41ogまで減少したとしても、低率ではあるがリンパ組織においてはHIV‐1の複製が続いていることは十分にありうる(9)。たとえ低率でもウイルスの複製が続けられると、抗レトロウイルス剤に対する感受性が低下したウイルス変異株が時間と共に増えていく。HlVの急性感染の時期に、最初の複製サイクルの段階でウイルスが変異し、その後、HlV―1感染者では当ウイルス変異株の次世代が出現し、それら変異株は特定の治療が加わらない条件下でも、抗レトロウイルス剤に対する耐性を次々に獲得していく。抗レトロウイルス剤投与開始前にウイルス株の中でどの程度ウイルスの変異が増えているかはそれまでのウイルスの複製周期の数、突然変異率、薬剤耐性を示す突然変異株に変わる前の野性株の適応性などによって決まってくる(31.32)。上記の知見は、薬剤耐性を有する大量のウイルス変異株に占有される前に、HlV感染症の治療を開始する方が、より持続的な効果が期待できるという考え方を支持するものと思われる。血漿中のウイルスレべルの低下は、CD4陽性細胞数の増加およびAIDS症状なしで生存できる期間を延ばすことにつながる(12,15)。HIV感染症の治療に際しては、ウイルスの複製をできるだけ効果的かつ持涜的に抑制することが臨床上の利益となる。しかしながら、血漿中のHIV‐RNAレべルが検出限界以下までに低下することと、臨床的有用性がただちに結びつくかどうかに関しては、今のところ確立された成績はない。

表1ヌクレオシド系アナログによる最近の比較臨床試験成績(対象患者数≧250名、観察期間≧48遇)

抗レトロウイルス剤未投与例に対する試験成積

zidovudine/didanosine 3(12,27,33,35)1000 0.0851.4
zidovudine/zalcitabine 3(12.27,33,35)1000 0.0851.4
didanosine1(12,23) 2500.040 0.8
zidovudine/lamivudine 2(24,36,107)300 0.0851.7

抗レトロウイルス剤既投与例に対する試験成績

投与計画文献NO(試験数)おおよそ患者数 CD4陽性細胞最大増加量(X109/l) HIV-RNA最大減少量(log10 copyes/μl)
zidovudine/didanosine 3(12,33-35,108)1000 0.040
  1. 1
zidovudine/zalcitabine 3(12,22,33-35)800 0.0200.9
didanosine1(12,33) 3500.035 0.7
zidovudine/lamivudine 2(41,56,109)275 0.0321.5


抗レトロウイルス剤未投与例

HlV感染症に対する最初の治療において、2種のヌクレオシド系アナログの併用投与により、患者の臨床検査値と臨床症状が改善されたとのいくつかの報告がある(表1).それらのうち3報は、zidovudineとdidanosineとの併用投与あるいはzidovudineとzalcitabineとの併用投与と、単剤投与効果を比較している。アメリカ合衆国のAlDS臨床試験グループ(ACTG)によるトライアル(試験175)では、未治療かつ本試験開始時のCD4陽性細胞数が200―500/μlのHlV感染者を対象に検討した結果、薬剤を併用投与したHlV感染者において、単独投与群と比ぺて臨床症状、血漿HIV‐RNAレベルおよびCD4陽性細胞数に有意の改善が認められた(12.33)。これらの成績は、試験開始時のCD4陽性細胞数〈350/μlのHlV感染者を対象とした、ヨーロッパとオーストラリアの共同試験(Delta 1)の成績(34.35)とほぼ同様であった.ACTG試験175においては、didanosine単独投与の成績は、他剤との併用投与の成績と同程度の有効性を示し、かつzidovudine単独投与の成績に比し優れていた。一方、Delta 1試験ではdidanosine単独投与はおこなわれなかった。さらに他の試験成績によると、最初からzidovudineとIamivudineとの併用投与をおこなった結果、それぞれの薬剤の単独投与に比し、患者によっては76週以上にわたって血漿HIV‐RNAレベルがより低下し、CD4陽性細胞数がより増加した(24、36)。しかし、以上の各種試験の成績は、臨床的なエンドポイントでは差は見られなかった。表1に示した成績以外の報告でもHlV感染者に対するヌクレオシド系アナログによ

る初回臨床試験でzidovudineを含まない試験は少ない。それらのうちCD4陽性細胞数〈500/μlの無症侯性HIV感染者を対象とした小規模の試験でstavudineとdidanosineの併用はそれまでの他の2種類の併用療法と比肩すべき効果があり、一方、副作用は少なかった(37)。stavudineとdidanosineとの併用投与によっても、これらと同様の抗レトロウイルス効果と副作用上の利点が得られる可能性はあるが、このことを証明するデータは今のところ発表されていない。一方、stavudineによる初回治療の効果に関する試験が現在おこなわれているが、その予備的成績によれぱ、stavudineの抗レトロウイルス効果はzidovudineと同程度と考えられる(38)。

抗レトロウイルス剤既投与例

抗レトロウイルス剤既投与例に対する臨床試験の成績は、HIV感染症の効果的な初期治療に対して、なんらかのヒントを提供するものがある。例えば、アメリカ合衆国で実施されたAIDSに対する共同臨床研究計画(CPCRA 007)では、試験参加時のCD4陽性細胞200/μl未満か、既にAIDSに進展している患者を対象に、併用療法(zidovudine/didanosineまたはzidovudine/zalcitavine)と、zidovudine単独療法とを比較検討した(39)。その桔果、併用療法により対象患者のCD4陽性細胞数は増加したが、臨床的有益性は得られなかった。一方上述の対象患者のほとんどは、試験に参加する前から既にzidovudineの投与(投与期間の中央値は12カ月)を受けており、zidovudineの前投与期間が長かった患者ほど併用投与群の患者の病状の進行または死亡のリスクが高かった.さらに、本試験の対象患者のうち、抗レトロウイルス剤未投与例およびzidovudineの投与歴が12カ月末清の患者では、zidovudine/didanosineの併用投与群で、病状の進行例および死亡例が減少した。一般に、ヌクレオシド系アナログの併用投与では、プロテアーゼ阻害剤の追加投与の有無にかかわらず、それぞれの薬剤の単独投与に比して、より強力な抗レトロウイルス作用が得られ、また、HIVの薬剤耐性の獲得も遅延するようである。プロテアーゼ阻害剤を含む併用投与の試験も最近いくつか報告されている。HIV感染症の中等度進行例に対しては、zidovudineとsaquinavifとの併用またはzidovudineとzalcitabineとの併用に比し、zidowdine、zalcitabine、saquioavirの三者併用投与の方が、より優れた臨床検査値の改善効果を示した(22)。また、CD4陽性細胞数が50〜300/μlで、かつ試験前に少なくとも16過間zidovudine投与を受けていたHIV感染者を対象として行われた大規模な第3相試験の桔果、squinavirまたはzalcitabineの単独投与に比し、それら両剤による併用投与の方が有意に優れた臨床効果(p=0.002)および生存宰(p=0.002)を示した(40)。一方、これらの試験成績は、その後に発売された経口吸収のよいプロテアーゼ阻害剤投与による成績には及ばなかった。たとえば、zidcvudine、1amivudineおよびindinavirの3剤を併用投与した小規模な試験では、16過目のHIV‐RNAレべルが2.51og10以上低下し、これら3剤を併用投与後6カ月のHIV‐RNAレべルは、90%以上の患者で500copies/ml以下になった(41)。上記3剤による併用投与は、indioavir単独あるいはzidovudine/1amivudine併用投与時と同程度の薬剤耐容性を示した。一方、zidovudine、zalcitabine、ritonavirの3剤併用投与の抗レトロウイルス活性はzidovudine、1amivudine、indinavirの3剤併用投与時と同程度であった(42)。著しく進行したHIV感染者(CD4陽性細胞数の中央値が18/μl)を対象におこなった大規模試験(43、44)で、すでに実施されている投与内容(今回の報告には含まれていない)に新たにritcnavirを迫加した結果、AlDSへ進行する例が減り、死亡率が約50%減少した。とはいえ、現在までのところプロテアーゼ阻害剤による長期(≧52過)かつ大規模(対象患者数≧250名)な臨床比較試験の報告数はごく限られている。nevirapine、delavifdine、1ovifideなどの非ヌクレオシド系逆転写酵素阻書剤(NNRTI)は、in vitfoにおいて著しく強力な抗HlV作用を示すが、同時にHIVの当該薬剤に対する耐性獲得も早いので、投与量を増やすことやヌクレオシド系アナログとプロテアーゼ阻害剤を併用投与することにより薬剤耐性獲得を抑制することが試みられている。またひHIV感染症の初回治療におけるこれら薬剤の併用投与の効果が検討されている。


表2HlV感染者に対する治療開始時期の提言

感染者の状態治療開始の必要性の有無
症候性HIV感染者すべての患者に対して治療開始
無症候性感染者CD4陽性細胞数<500μL

CD4陽性細胞数>500μL

治療開始HIV-RNA>30000-50000 copies/ml またはCD4陽性細胞数が急激に減少しつつある例で治療開始。HIV/RNA>5000-10000 copies/ml の例では治療開始するかどうか検討。


いつ治療を始めるべきか

HlV感染症の治療は、非可逆的な免疫障害が発現する前に開始するのが望ましい。いつ治療を開始すべきかは、本症進行の危険性の大きさに基づいて決定されるべきである。HIV感染症の自然経過に関する研究および臨床試験成績によれば、血中HIV量が多い場合やCD4陽性細胞数が減少しているような場合には、本症進行の危険性が高い状態にある。とはいえ、HIV感染症の治療開始時期については、研究者により意見が異なっている(表2)。臨床試験成績はHIV感染者でCD4陽性細胞数〈500/μl(または全リンパ球に対するCD4陽性細胞比〈25%)を示した場合には治療を開始することを支持している。一方、HHV感染者でCD4陽性細胞数が350―500/μlの間で安定(例えぱ18〜36カ月問)しており、かつ血漿中HIV‐RNAレべルが5000〜10000copies/ml以下で推移している場合には治療を延期すべきであるという意見もある.CD4場性綿胞数〉500/μlを示す無症侯性HIV感染者に対する最適な治療指針を示す臨床試験報告は今のところない。但し、HIV‐RNAが30000〜50000copies/ml以上またはCD4陽性細胞数が急激に減少(例えば12〜18カ月の間にCD4陽性細胞数が300/μl以上減少)した患者は、HlV感染症進行のリスクが高いので、治療開始が勧められる。また、HIV‐RNAが500〜1000copies/mlの患者についても、進行が早い可能性があれば治療開始を考慮すべきである。しかしながら、CD4陽性細胞数〉500/μlのHlV感染者に治療を始めるにあたっては、この時期のHIV感染者に対して治療を開始することが有益なことを裏付ける臨床データは今のところ存在しないこと、またそのような早期に治療を開始すれぱ、長期的な副作用・薬剤耐容性・薬剤の受容・治療賛用および投与薬剤に対する耐性獲得ウイルスの出現することなどを考慮に入れて槙重に判断する必要がある。但し、症侯性HIV感染者(たとえば、再発性粘膜カンジダ症、口腔内白板症、慢性の不明熱、寝汗、体重減少などを示す患者)に対しては、全て抗レトロウイルス剤による治療を開始すべきである。抗レトロウイルス剤による治療開始時の選択薬剤HIV感染者に初めて抗レトロウイルス剤を投与する場合の薬剤選択の間題は、すべての患者に対して始めから効果が最も強い抗レトロウイルス療法を選択すべきか、あるいは最も効果が強い抗レトロウイルス療法は病状が進行するリスクが高いと考えられるHlV感染者や初期の治療後に病状が進行した患者に対してのみ使用すべきか、という間題に集約される。現在のところ、上記のいずれの考え方も受け入れられている。現在のウイルス学的および免疫学的知見によれば、現在HIV感染症に対する最も強力な治療方法は、2種類のヌクレオシド系アナログと1種類の強力なプロテアーゼ阻害剤の併用であろう.但し、HlV感染症に対する最初の治療薬としてのプロテア‐ゼ阻害剤の治療経験、あるいは早期のHlV感染症に対するブロテアーゼ阻害剤の治療経験は今のところ限られている。従って、最初の治療薬としてプロテアーゼ阻害剤をHIV感染者に用いた場合の長期臨床成績が判明するまでは、抗レトロウイルス剤の治療適応があるとされるほとんどの感染者に対して表3に示したようなヌクレオシド系アナログを含むレジメの1つで始められるべきものと思われる。


表3初めて治療をするHlV感染者のための投与方式

zidovudine/didanosineまたは

zidovudine/zalcitabineまたは

zidovudine/lamivudineまたは

didanosineの単独投与

これらヌクレオシド系アナログを含むレジメにプロテアーゼ阻害剤を追加する場合には、プロテアーゼ阻害剤はまず抗レトロウイルス作用が強いこと、さらに本文中に述べた条件を考慮にいれて選択されるべきである。


ヌクレオシド系アナログの併用投与方式のうち最も優れた臨床効果を示すものとして、zidovudine/didanosineおよびzidovudine/zalcitabineの組合せが報告されている(表1)。また、zidovudine/Iamivudineの併用投与も耐容性が高く、前2者と比肩しうる強い抗レトロウイルス作用を示すと考えられているが、それを裏付ける最終的な臨床データはまだ出ていない。さらに、感染者に対する最初の薬剤として1amivudineを選択した場合には、HIVの逆転写酵素の耐性獲得部位であるコドン184の突然変異が起こり、その桔果、didanosineおよびzalcitabineに対する感受性が低下することが注目されている。上述の通り、既存のデ‐タに基づく限り、併用投与が勧められているが、とくにzidovudineに対する耐容性に欠ける感染者あるいはzidovudine投与を拒否する感染者に対しては、didanosineの単独投与も勧められる(12.13)。また、didanosineの単独投与の患者に対しては、zidovudineを後で追加するか、あるいはzidovudine/zalcitabineまたはzidov11dine/1amivudineの併用投与に切り替えることもできる。但し、既にdidanosine単剤による治療を受けていたHIV感染者に対し、上述のような投与方式に切り替えた場合の有効性を示す成績は、今のところ報告されていない。一方、zidovudineを含まない多剤併用治療指針に関しては、発表されている裏付け臨床データが少ない。stavudine/didanosine併用投与の抗レトロウイルス効果は、他の2剤の併用投与に匹敵するようであるが(37)、とくに進行したHIV感染者に本併用投与をおこなう場合には神経毒性に対する注意深い観察が必要である。また、骨髄の造血能が低下しているため、zidovudineを含む薬剤の投与が適当でないHIV感染者に対しては、stavudine/Iamivudineの併用投与が優れた耐容性を示す。但し、この併用投与における薬物動態、安全性、効果に関する十分な評価はまだなされていない。さらにstavudineの単独治療も耐容性に優れているが、他の薬剤(zidovudineまたはdidanosine)単独による初回治療の効果と比較した報告はない。zalcitabineおよび1amivudineのいずれかによる単剤投与の効果は満足すべきものではない。既に述べたように、HIV感染症の進行のリスクが大きい患者に対して初めからプロテアーゼ阻害剤を加えたレジメにより治療することは、理にかなっているであろう.この投与方式は、症侯性HIV感染者、CD4陽性細胞数が少ないか急教に減少しつつある患者および血漿HIV‐RNAが高レべルの患者に適応がある。プロテアーゼ阻害剤の選択に当たっては、効果の強さ、安全性と耐容性、抗ウイルス作用の持続性、薬物耐性パターン、二次治療への影響、および医療費などを考膚して逮択すべである。プロテアーゼ阻害剤の中でも最初に市販されたsaquinavirは、耐容性に優れているが、生体内利用率が低いために、現在実施可能な治療戦略の中でその役割は限定されている。ただし、Saquinavirについては、生体内利用率を改善した投与方式が検討されている。indinavirは薬効が強く耐容性も優れている。本剤の副作用としては、良性の高ビリルビン血症および3〜4%の患者に発現する腎結石症(結石は主に沈殿したiodinavirからなる)などがある。ritonavirの薬効はiodinavirと同等であるが、副作用発現宰はindinavirに比して多い。消化器障害(20〜25%)、肝障害、頭痛、口腔周囲の一過性感覚異常が主な副作用である。また、ritonavirは肝臓のチトクロームP450のインヒビターであり、そのためにこの経路により代謝される他剤とritonavirとを併用する際には、複雑な相互作用が出現する。この点から、この経路により代謝される他の薬剤を投与する必要が多い、進行したHlV感染者に対するritonavirの使用は難しい.ヌクレオシド系アナログおよびプロテアーゼ阻害剤を含む多剤併用療法を始めから選択する場合には、薬剤間の交叉耐性に関する最新デ‐タに基づいて決める必要がある(45)。例えば、ヌクレオシド系アナログの場合は、コドン184突然変異に基づく1amivudine、didanosine、zalcitabineの間の交叉耐性の有無に配慮する。また、in vitroにおけるブロテアーゼ阻害剤に関する交叉耐性の発現頻度からみれぱ、初回に用いる薬剤により、後で使えるプロテアーゼ阻害剤が制限される可能性がある(46)。報告数は少ないものの、in vitroおよび臨床試験の結果は、ritonavirとindinavirは種々の突然変異を起こし、その結果互いの間に交叉耐性を形成するという仮説を裏付けている。一方、saquinavir投与例で最もよく認められるin vivoにおける突然変異は、上記2剤の場合と異なり、変異のパタ‐ンが少ない。しかもin vitroて他の薬剤との間に交叉耐性を示さない(45)。しかし、saquinavirによる突然変異の中にはindinavirおよぴritonavir投与例の変異と共通するものも見られる。従って、ブロテアーゼ阻害剤を含めた一次治療を選んだ場合の将来の利益についての臨床成績は、今のところ十分には解明されていない。プロテアーゼ阻害剤の薬剤耐性と他剤との交叉耐性の臨床上の関連については、最新のデー夕および今後発表されるデ‐タなどを分析し、慎重に検討する必要がある。さらに、各種のプロテアーゼ阻害剤は、規定量以下を投与した場合には耐性が発現しやすいので、全てのプロテア‐ゼ阻害剤は至適投与量を緩続投与することが重要である。すなわち、副作用の発現した場合には、一般的にプロテアーゼ阻害剤の投与量を減らすよりも、薬剤の投与を中止する方がよい。

抗レトロウイルス剤の変更

  1. 治療方式を変更すべき理由HlV感染者の初回治療にどの抗レトロウイルス剤を選択するかは、最も重要な点である。しかし、実際には一次治療薬として選択された抗レトロウイルス剤の効果が、長期間にわたり持続する患者は少数である。一般的に、初回に選択した抗レトロウイルス剤の変更を考慮すべぎ理由として以下に述べる3つがある。

治療効果がみられない場合

少なくとも一部は一次治療薬に対する耐性株の出現によってHIVの複製が増大し、その結果患者の免疫能が低下し、臨床症状が悪化する。このような病態の進行は、患者のHIV量の増加(例えば、血漿HIV量が治療前の血漿レべルまで0.3〜0,51og10の範囲内での再上昇)、CD4陽性細胞数あるいはパ‐センテージの減少、臨床症状の悪化などにより示される。従って、できるだけ頻回に遺切な検査を行い、患者の症状が進行する前に、必要に応じて投与薬剤を切り替えるようにすべきである.患者の血漿HlV‐RNAを定量することにより、投与した抗レトロウイルス剤の効果の程度と持涜性とを知ることができる。また、血漿中のHIV‐RNAの定量値とCD4陽性細胞数を組合せることによって患者の血漿中HIVの負荷レべルを知ることもでき、その結果治療方針がたてやすくなる。血中HIV―RNA値をもとにHIV感染者ひとりひとりの治療方針をたてる暫定的な指針は、すでに報告(47)されている.この暫定指針によれば、初回投与後または薬剤変更後3〜4週目に血漿HIV‐RNAレべルを測定し、それから、CD4陽性細胞数の測定と同時に定期的にHIV‐RNAレベルを測定(例えば3〜6カ月毎に)すべきである。投与した抗レトロウイルス剤の効果を証明するには、投与開始前より少なくともHIV‐RNA値が0.51og以上(治療前の1/3)に低下することが必要である。(定量値間の変勤は約0.21og、または生体内変勤は約0.31ogであることに基づく)。一方、ワクチン接種または急性偶発症の罹患から1カ月以内に潮定されたHIV‐RNA値は、その影轡により一過性の有意の上昇を示すことがある。ただし、このような場合には、投与薬剤を変更することなく、HIV‐RNAの値はいずれ回復する(48−50)。CD4陽性細胞数の測定もHIV感染者の治療方針を決定するために、よく利用されているが、血漿HIV―RNA量の場合と同様に、薬剤を変更する指標とすべきCD4陽性細胞数の変化をはっきりと示すことはできない。大部分の専門家は、CD4陽性細胞数が治療前のレべルに戻ることは、薬剤の効果の消失を示すものと考えている。このような場合には、CD4陽性細胞数の低下の速度や実際に変更可能な治療方式の有無について考慮すべきである。HIV感染による臨床症状が発現した場合には、現在投与されている薬剤は、無効と考えてよい。ウイルス学的および免疫学的パラメータにより治療計画を見直す目的は、HIV感染者の臨床症状の進行を予防することにある。薬剤の効果がなくなったか否かの判断の指標として、臨床症状の悪化を用いると感度が悪いため遅きに矢することになる。HIV感染者の治療方針の変更は、ともすれば遅れがちとなるが、その理由として変更すべき適切な薬剤が限られていること、多くの医師が一般的にもっている保守性、あるいは治療内容の変更は病気の進行を認めることになることがあげられる。しかし、これまでに集積された証拠によれば(34,35,39,51−54)早めに薬剤を変更する方がHIV感染症の進行を有意に抑制し得るようである。

薬剤の副作用、患者の投与薬剤に対する不耐容あるいは不支持による場合

現在市販中の抗レトロウイルス剤は、それぞれ用量依存性の副作用をもっている。それら副作用は、一般的には進行例においてより高頻度にみられ、さらに他の併用薬剤の副作用がオーバーラップすることによりHIV感染症の進行例では抗レトロウイルス剤の選択肢が制限される。医師と患者は、投与薬剤の副作用および現在の治療への固執について率直な話し合いを続けなければらない。

それまで次善の投与方式で治療されていた場合

zidovudineの単独投与は、現在では次善の投与方式であるり、zidovudine単独治療中のすべてのHIV感染者は、このままzidovudine単独投与を続けるべきか否かを繰り返し評価される必要がある。

何に変更するか

それまで投与されていた薬剤を変更する場合、どのような薬剤を追加すべきか、あるいはどのような薬剤に変更すべきかについては次のようないくつかの点を考厳する必要がある。すなわち、薬剤変更の主な理由、過去の治療歴、現時点で入手可能な代替薬、HIV感染症の病期、随伴疾患(たとえば神経障害)、併用薬、および代替薬を使用した時の患者負担額と保険による補助額等であるが、それらのうちでも最も重要な点は、治療内容を変更する理由である。例えば、副作用または非耐容性が原因であれば、変更すべき治療は患者がその投与方式に耐えることができ、新たな治療を続けることができることが必須の条件である。一方、既治療が無効の場合、変更するべき薬剤はそれまでの薬剤と異なる作用機序をもち、より薬効が強いこと、それまでの薬剤との間に交叉耐性を示さない薬剤であることが重要な点である。現在では、市販の抗レトロウイルス剤の数が年々増えてきたので、抗レトロウイルス剤の投与方式を必要に応じて修正しながら続けることができる。初期の段階から作用の強い薬剤を選択する場合には、HIV感染症の後期に用いる治療薬のことも考えて治療方針を決める必要がある。初回治療のところで述べたように、全てのHIV感染者に共通の至適投与方式はない.一般的に言えぱ、患者個々のウイルス学的、免疫学的、臨床的な所見に基づいて、現在利用可能な最も効果の強い投与方式に変更すべきである。表4に初期治療を変更するレジメの代表的な例を示した。


表4 初回の治療が無効または治療に耐えられない患者に対する切り替え投与方式

治療が無効あるいは(有効であった投与中の薬剤が)無効になった場合

初回投与方式切り替え投与方式
zidovudinezidovuzine/didanosine±pritease inhibitor

zidovudine/lamivudine±protease inhibitordidanosine±protease inhibitordidanosine/stavudine±protease inhibitor

didanosinezidovudine/lamivudine±protease inhibitorzidovudine/didanosine/protease inhibitorstavudine/protease inhibitor
zidovudine/didanosine zidovudine/lamivudine±proteas inhibitorstavudine/protease inhibitor
zidovudine/zalcitabine zidovudine/lamivudine±protease inhibitorstavudine/protease inhibitor

didanosine/protease inhibitor

zidovudine/lamivudine didanosine/protease inhibitor

stavudine/protease inhibitor

didanosine/stavudine

lamivudine/stavudine

薬剤に不耐容の場合(注3)

初回投与方式切り替え投与方式
zidovudinedidanosine

didanosine/stavudine

lamivudine/stavudine

didanosinedidanosine/lamovudine

lamivudine/stavudine

stavudine/protease inhibitor

zidovudine/zalcitabinezidavudineに非耐容性

zalcitabineに非耐容性

didanosine

didanosine/protease inhibitor

didanosine/stavudinestavudine/protease inhibitorvidovudine/lamivudine±protease inhibitor

zidovudine/lamivudine didanosine/protease inhibitorstavudine/protease inhibitor

didanosine/stavudine

注1:初回の投与方式にプロテアーゼ阻害剤が含まれていた場合は、切り替え投与方式にはヌクレオシド系と非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤ならびにブロテアーゼ阻害剤(すでに投与されているプロテアーゼ阻害剤との間の交叉耐性がないか、ほとんどない薬剤であること)のなかから少なくとも2種類の新しい薬剤をふくむレジメを選択する。

注2:zidovudineの単剤投与をうけていたすべての患者については、現在の治療法をステップアップする必要がないか再検討すること。

注3:表中のヌクレオシド系アナログの投与方式にプロテアーゼ阻害剤を追加してもよい。


現在、zidovduioeの単独投与を受けている患者については、より強力な抗レトロウイルス剤による投与方式(たとえば、zidovudineに、didanosine、zalcitabineまたは1amivudineのいずれかを追加するか、didanosineの単独投与に切り督える)ヘの変更を再考すべきである(12,24,35,51,53−55)。また、進行したHIV感染者あるいは強力なzidovudineの投与歴がある患者に対しては、Iamivudineを追加投与するか、他のヌクレオシド系アナログにプロテアーゼ阻害剤を追加または追加しない投与方式に切り替えるとよい。これに対し、進行したHIV感染者に対して従来のzidovudine単独投与をzalcitabineに切り替えるか、zalcitabineを追加してもzidovudine単独投与以上の効果は期待できない(39,52,56)。zidovudineとdidanosineとの併用投与を受けていた場合に比し、投与方式を変更する時点でdidanosineを追加した場合の効果はより弱く、とくに既に強力なzidovudineの投与を受けていた患者あるいは進行したHIV感染者ではdidanosineの追加効果は弱いか無効とされている(12,34,39,51,53)。このような患者に対しては、未使用のヌクレオシド系アナログとプロテアーゼ阻害剤を併用した投与方式が勘められる。既にzidovudine/didanosine、zidovudine/zalcitabine、zidovudine/1amivudineのように2種のヌクレオシド系アナログの併用投与を受けていたHIV感染者に対しては、新規の併用投与が勧められる。l種または2種のヌクレオシド系アナログとプロテア‐ゼ阻害剤(indinavir、ritonavir、saquinavir)による少なくとも2種類以上の新しい薬剤の併用投与が勧められる。また、初回治療にブロテアーゼ阻害剤を含むレジメが使われた患者に対する切り替え投与計画には少なくとも2種類の未投与薬剤を取り入れるべきである。しかしながらこの場合のブロテアーゼ阻害剤の追加あるいは変更方法について、具体的な勧告をだすためのウイルス耐性パターンに関する十分なデータはない。

抗レトロウイルス剤の投与中止を考慮する状況

著しく進行したHlV感染者に抗レトロウイルス剤を継続的に投与した結果、重度の副作用が出現し、患者のQOLに悪影響が発現した場合は、投与中の抗レトロウイルス剤の投与を中止するのは適切な処置である。ウイルスの勤態に関すデ‐タ(7〜9)によれば、HIV感染者に継続的薬物治療をおこなう場合には、患者の定期的観察と投与中の抗レトロウイルス剤の再評価を継続することが必要なことを示している。薬剤の投与を中止した場合には、数日中に血漿HlV‐RNAレベルが増加する(6,57)。このような親点から、薬剤投与を中止する前にそれら薬剤による副作用をコントロールする努力が十分になされるべきである。

特別に考慮すべき間題

初期(急性期)HIV感染に対する治療、医療従事者その他の事故的なHIV曝暴露時のHIV感染予防対策、およびHIVの母子感染予防対策の3つのテーマについて本項目でとりあげる。後者の2つのテ‐マについては、他報(58〜60)でも詳述されている。本報では、これら3つのテーマに関し、とくにHIVの病原性、最新の臨床知見およびさらに強力な抗レトロウイルス剤による治療に焦点をしぼって述べる。

(l)HIVの初期(急性期)感染

背景:HIV感染症では、ウイルスに感染後4〜7週間のうちにHIVの急激な複製が認められる。この期間に複製されるウイルス粒子の数は、その後の数年間の無症侯性HIV感染症の期間に複製されるウイルスの粒子の数に匹敵する。HIV感染者の約30〜60%は急性期に発熱、倦怠感、リンパ節腫脹、咽頭炎、頭痛、筋肉痛ときには皮疹などの症状を発現する。ウイルスに感染後、通常30〜50日以内にHlV抗体が陽性化し、広範なHIV‐1特異的免疫反応が出現する(6)。HIVの初期感染では、血漿HIV‐RNAレベルが高値(106〜108copies/ml)になるのが特微である.感染者一人一人の血漿HIV‐RNA量のセットボイントはそれぞれ異なるが、HIV‐RNA量がどのレべルに落ち着くかはその後の本症の進行の危険性と強く関連している(10,54,55)。理論的に言うと、HIV感染症の急性期治療の目的は、感染が十分に成立する前に介入することによってウイルス量のセットポイントを低くおさえることと、それぞれの患者でのHIV株の遺伝的変異の多様性をなるべく少なくすることである。HIV感染の急性期治療に関する知見は数少ない。HIV感染の急性期あるいはセロコンバージョンのすぐあとからzidovudine(250mg/l日2回)を6カ月間服用した感染者では、抗レトロウイルス剤を投与されなかった患者に比し感染症の進行が抑制され、臨床症状の程度が軽減し、CD4陽性細胞数も多かった。また、血漿HIV‐RNA量も治療群の方が低値であったという報告がある。HIV急性期感染の治療に関する提言:

HlV感染者に対する抗レトロウイルス剤の効果を高め投与薬剤に対するウイルスの耐性獲得を最小限、あるいは遅延させる(既に薬剤耐性をもつHIV株による感染例もあるが)ためには、市販されている薬剤による、最も強力な併用投与法を実施すべきである。患者を臨床試験の対象に組み込むことができない場合には、少なくとも2種類のヌクレオシド系アナログの併用投与(例えば、zidovudineとdidanosine、zalcitabineと1amivudine)が勧められる。さらに可能なら、プロテアーゼ阻害剤または非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を1剤追加することも考膚すべきである。2〜3剤の併用投与による予備的研究も進行中である。HIV初期感染に対して抗レトロウイルス剤投与をどれくらいの期間行うかは、今までのところはっきりしていない。ただ1つ発表されている関連データ(55)によれば、抗レトロウイルス剤による治療は少なくとも6カ月は続けることが勧められている。これに関する追加デ‐タが入手できるようになるまでは、6カ月以降の治療は、臨床的判断、HIV‐RNAレべルおよびCD4陽性細胞数、患者の薬剤耐容性、薬剤の長期投与による副作用および経済的側面により決められるべきである。

HlV降露後の感染予防対策背景:

医療従事者が注射針その他の医療器具で皮膚を傷つけた場合、HlVに感染する確率は約0.3%である(57,58)。これらの事故の時に、実際にHlVに感染する危険性は、曝露された血

液量(例えば、HIV抗体陽性者の血液を輪血された患者の90%はHIVに感染する)、暴露された血液の供血源であるHIV感染者の病期およびHIV‐RNAレべル、傷害部位および傷害状況などによって異なる(58,67,69−71)。その他にも事故的なHIV暴露におけるHIVの感染例、例えぱHIVを扱う臨床検査技師、HIV感染者の性的パートナ‐およびHlV感染者に咬まれた場合などの報告(72〜74)があるが、それらの詳細は明確にされていない。HIVに暴露後のHIV感染の予防薬として評価されている主要な薬剤は、zidovudineであるが、動物実験の成績ではzidovudineの予防効果については未だに結論が得られておらず(75〜78)、さらにヒトでのzidovudineの予防効果を証明した報告の数はごく少ない(79―83)。最近、フランス、英国およぴアメリカ合衆国の公的医療機関を対象におこなわれた感染者と対照群との比較試験の桔果が報告された。この報告では、感染した31名と感染しなかった679名について比較されたが(71)、感染のリスクを高める要因として深部に至る傷、注射針その他の器具に肉眼的にわかる程度に血液が付看していた場合、患者の静脈または動脈に直接留置された注射針による事故およびHIV爆暴露の原因となった元の患者が末期であったこと等が明らかにされた。また、HIV感染予防のためにzidbvudine(1000mg/day)を3〜4週間投与されたHIV被爆露者では、対照群と比較してHIV感染の危険性を80%近く減らすことができた。ただし、これらの結果の解釈にあたっては以下の点に留意する必要がある。すなわち、これらの比較成績はレトロスペクティプな研究桔果であること、本研究はプラセボを用いた比較試験ではなく感染者と対照とによる比較試験(case control study)であること、これらの感染者と対照は異なる母集団から選択されたこと、報告および確認に際してなんらかの偏りが介在した可能性があること等である。HIV曝露後の感染予防に関する提言の裏付けとなるデータは限られているが、医療従事者あるいはその他の人達がHlVに感染する危険性が高い事故に遺遺した場合には、HlV感染に対する予防処置が必要である(71)。医師は、現時点ではあまりよく研究されていないHlVの暴露、例えばHIV陽性者からの臓器移植、レイブ事件あるいはHIVを扱う臨床検査技師の事故に対する予方処置について判断を求められることもあろう。これらのケ‐スにおけるHIV感染宰は、少なくとも注射針による皮膚への刺傷の例におけるHIV感染率を想定し、その場合と同様の予防処置を実施することが妥当であろう.HIVに暴露後の感染予防処置として従来から発表されている指針は、zidovudine 200mgを4時間毎に1日6回3日間投与した後、zidovudine 100〜200mgを4時間毎に1日6回25日間投与する方法である(58)。一方、最近では、米国の疾病対策・予防センターのタスクフォースがガイドラインを報告している(81)。HIVに暴露後できるだけ早い時点(たとえば数時間以内)に感染予防のための投薬が開始さた場合に、最大の予防効果が期待できる。従って、HIV感染の予防計面を医療機関ごとに作成し、職務中あるいは病院でのHIV爆露時に用いる標準的な予防キットを常備することを強く勧めたい。既に述べたようなHIV感染者での治療経験と暴露された血液のソースである患者ではzidovudine耐性株が増加していることを考えると、医療従事者の感染予防に関しても単剤投与よりも併用投与の方がすぐれた効果が期待できる。但し、これら併用投与に際しては、感染源の患者に対して投与されていない薬剤を2種類以上できる限り選択すべきである。zidovudineの単独投与に代わる方法には少なくとも2種のヌクレオシド系アナログによる併用投与などがある(表3)。可能な場合には、さらに強力なプロテア‐ゼ阻害剤または非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を含む3剤以上の併用投与も考慮すべきである。新たな治療法の開発は感染予防の面でも投与計画の遺択の幅を広げるであろう(23,25,26,58−92)。これまで予防投与の実施期間(4〜6過間)は、主にHIVの病態に関する古典的な考え方(59,71)を基にして決められていた。しかし、ウイルス複製に関する最近の知見に基づけば、なるだけ短期間にできる限り強力な治療(例えば3剤による併用投与を2過間)を行う方がより適切と考えられている。但し、このことを公式に勧告するためには今後さらに検討する必要がある。

(3)母子感染に対する予防対策背景

抗レトロウイルス剤による母子間の感染予防対策を行わなかった時の母子間HIV感染率は15〜35%である(93−96)。母子感染のリスクを高める要因として、4時間以上にわたる破膜と新生児の母体血液への暴露が知られている(60,94,97)。母親の血漿中HIV‐RNAレべルがどの程度であれぱ新生児に感染し、どの程度なら感染しないという閾値はないようである(98−101)。母子感染の予防に対する抗レトロウイルス剤の有効性は、CD4陽性細胞数が200/μl以上で、過去に殆ど、または全くzidovudineを投与されなかった母親で証明されている(95,99)。分娩前および分娩時の母親と出生後6週までの新生児へのzidovudineの投与は、新生児のHIV感染率を1/3(すなわち非投与群における感染宰24.9%から薬剤投与群では7.8%)に減らした。また、最近の試験成績(102−104)でもzidovudine投与により母子間におけるHlVの感染率が低下したことが報告されている。

母子間のHIV垂直感染の予防に関する提言

全ての妊婦がカウンセリングとHIVに関する検査を受けるべきである(60)。その結果、妊婦がHIVに感染していた場合は、全例垂直感染の予防のために薬剤の投与を受けるべきである。また、母親がHIVの治療を受けたか否かに拘らず、HIVに感染している母親から生まれた新生児は全て薬物治療を受けるべきである。さらに、現在抗レトロウイルス剤の投与を受けている全ての妊婦は、妊娠中も薬剤の投与を続けるべきである。HIVは母乳でも感染しうるので、米国小児科学会の指針(105)によれば、HIV感染症の妊婦に対しては、事情の許す限り新生児を人工栄養で育てるように勧めるべきである(106)。今のところ、zidovudineを除けぱHIVの母子感染予防薬として有効性、安全性、催奇性などに関して推奨に足りるだけのデータがそろっている薬剤はない(102)。

結語

現在では、HIV感染症に対するより効果的な治療が可能となった。一方、HIV感染症の治療方針の決定はさらに複雑になり、HIVの病態の理解、抗レトロウイルス剤に対するHIVの耐性獲得パターン、HIV感染症の進行に関する臨床検査マーカーの変動と投与薬剤効果との関連などの要因を分析検討することが必要となってきた。本報において我々が示した提言は、臨床医がHIV感染症の治療方針を決定する際の助けとなることを願うものである。さらに新しいデータが報告されれば、本報の提言内容も必要により変更すべきであり、本パネルメンバーは正当な根拠のもとにこの提言を最新なものに修正していくつもりである。


文献リストは省略しました

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