白鷺集 '92/1


寺門出てものの匂いや秋の雨

和蝋燭灯し雨月の句座となる

檸檬屋の主人の酒ぐせ雨月更け

自転車の砂利踏む音や秋桜

レッカー車に引かれる車秋時雨




白鷺集 '92/2


女みな足組む車内秋日和

蟷螂の枯れて踏まるるアスファルト

新定跡出るか夜長のタイトル戦

妻と居て最中の甘き小春かな

ワゴン車の大きなタイヤ落葉踏む




白鷺集 '92/3



都にも何時か住古り年迎う

寒ぶりの子ははまちにて瀬戸の街

元朝や丹沢連山黒々と

工事場のクレーン停りて三ケ日

古時計つひに停りし去年今年




白鷺集 '92/4


借りてきた猫おとなしく鰯食う

憎まれて世にはびこりてにごり酒

山茶花の散り敷き質屋は定休日

伊予柑を「いい予感」と売る湯島宮

バレンタインのアベック多き展望台




白鷺集 '92/5


いと小さき餅切る鏡開きかな

世界史の節目の年や卒業す

バレンタインの夜の二人の動かざる

雛あられ妻の素顔の美しく

車内うらら中年も読む漫画本




白鷺集 '92/6


牡丹の芽に雨柔かき観音堂

友人は皆医師にして風邪篭

口述で原稿書き継ぐ日脚伸ぶ

灯点らぬ大使公邸八重椿

花疲れ仕事疲れの検査入院




白鷺集 '92/7


入院にある種の覚悟花冷ゆる

覚悟決め患者となりて四月寒

名人の扇子飾りて入院す

横たわるのみの術后の蘭を見る

つつじ坂おり切るまでの試歩の道




白鷺集 '92/8


病窓に高層ビル置く五月晴

病棟の夜は短く街は騒音

通り過ぎし犬ふり返る青葉道

つつじ祭終りて試歩の道となる

暗渠の川公園となり額の花




白鷺集 '92/9


甚平着ていよいよ脛の細きかな

台風近しドーナツ形の雲流れ

都庁舎の人なき窓も秋灯

盂羅盆の都庁人なく窓灯る

打ち上げし白球吸い込む雲の峰




白鷺集 '92/10


屋上に見物の人出遠花火

猫連れて二階に上る遠花火

ビル毎の屋上に人花火上がる

屋上で花火見物ビル住い

屋上にひと集まれば花火上がる