白鷺集 '91/1


庭園に外人多し秋日和

庭園の鴨見て立てるロシア人

秋晴れていざ鎌倉の句会かな

エスカレータの横に絵のあり芒原

ビルの中に柿の木置かれし落葉かな




白鷺集 '91/2



星影にきのこ踊りゐし山の宿

木下雨きのこ輪になり踊りゐし

メルヘンの宇宙より来る毒茸

利休ねずみの林にきのこ真紅なる

ヴェール脱いできのここの世に生まれけり




白鷺集 '91/3



泉岳寺の門閉されて冬の雷

品川の宿場濡れ行く冬嵐

マンションの茶室山茶花活けてあり

内蔵助の真筆茶室に梅の花

あり合わすケーキを出してクリスマス




白鷺集 '91/4



売りものの三味線破れて風寒し

負け将棋の美学はげしく紅葉散る

棋士ら靜か窓小春の対局場

棋士並べる駒美しく寒に入る

卒業や医業は長き長き道




白鷺集 '91/5



停りそうで停らぬ時計去年今年

戦争の短歌になじめず燗熱く

人いさかう砂漠に寒の月昇る

東京湾岸は戦場ならず春隣

展望台より東京湾まで春灯




白鷺集 '91/6



仏像画皮肉にほゝ笑み春立ちぬ

診療所移転の張紙凍て返る

落花拾ふ警官ピストルさげしまま

大銀杏の裏をのぞきて春寒し

雑音は人の世のこと落花舞ふ




白鷺集 '91/7



ひいきチーム敗れてふて寝の花曇

展望をさえぎる都庁舎春暮るる

新入社員の背広目につく展望台

菖蒲池荒れたる関口芭蕉庵

芭蕉住みし神田上水走り梅雨




白鷺集 '91/8



占師半袖シャツにベレー帽

ひや酒に句座ひとしきりにぎやかに

孫の名は皆横文字や鯉幟

ひまわり畑ロシアの歌はもの哀し

当山の和尚の葬儀額の花




白鷺集 '91/9



島原は雨降り続く星祭

眠られぬ夜は文庫とひや酒と

冷房車ドア閉りてはまた開く

隅田川に太鼓の音渡る星祭

短冊掛の藍染涼しき記念館




白鷺集 '91/10



茶室にもクーラーありて白熱灯

今から渡る大橋瀬戸の油照り

碧い眼の少年遍路笠かむり

思い出は数々ありて法師蝉

横断歩道のメロディ崩れて酷暑なる




白鷺集 '91/11



この電車何時も遅れる芋嵐

地下鉄で美人見し日の百日紅

炎昼や美人の爪の真赤なる

展望台で本読んでいる子夜の秋

乙女らの胸の豊かに秋立ちぬ




白鷺集 '91/12



鉢植の稲の実りて穂を垂るゝ

中国人になり切って見る七日月

アオマツムシりゝと異国の美女行けり

窓あけて虫の声聞く句座となる

秋霖の傘傾ける質屋前