白鷺集 '90/1



頂上に白き建物山粧う

霧すこし晴れて山裾見え初むる

ガム噛めば夕焼空に鐘の音

時雨るるやコンピュータ占い休業中

霧深し展望きかぬ展望台




白鷺集 '90/2



毒茸食べる話に皆黙る

推理小説に家族でふぐ喰ふ場面出て

締切を勝手に延ばしてふぐと酒

ドレミファ荘のソーラシステム冬日中

秋天を飛行機降りれば道後の湯




白鷺集 '90/3



星見へぬ東京の空寒に入る

女坂とは云へ急坂木枯中

息白く男登り来女坂

体調の悪さ歯に出る寒の餅

散るを見て山茶花と知る通勤路




白鷺集 '90/4



売物のホルン吹く音歳の市

鳩に餌をやる人叱る人

寒雀鳩に混りて餌を拾ふ

ネオン街に烏鳴く声寒に入る

屋上にクレーン大きく寒の入




白鷺集 '90/5



上野より谷中にかかる春の虹

ガラス戸に入れられて咲くゼラニウム

春一番女子高生のかまびすし

春風邪の抜けず晩酌深酒に

浅き水鯉跳び出さぬうらゝかな




白鷺集 '90/6



淡路町うらゝと云う名の理髪店

桜田門外へハイヤー急げば落花舞う

ハトバスも停り二重橋うらら

夜桜や稲荷の塀の長きこと

春愁を隠す化粧は厚くして




白鷺集 '90/7



地下駅を列車出てゆく菜飯弁当

万緑や観音像の顔白く

葉桜の影の円光太陽像

連休のアパートひっそり雲の峯

高層のビルの窓夕焼の薄れゆく




白鷺集 '90/8



屋根裏部屋たまに灯る楠若葉

人悪くなりしという棋士さわやかに

咲き残るつゝじ一株根津の森

瑞巖寺の洞窟に住むひき蛙

島々は灯らず松島霧に暮れ




白鷺集 '90/9



瑞巖寺ほどの寺にも囀れる

島に生ふ松を数へて船うらら

乙女稲荷の鳥居新し夏木立

鯉寄れば金魚逃げゆく池うらら

指さした指そのまゝに児の昼寝




白鷺集 '90/10



十六光年は近くて遠し星祭

二百万年前の光も祭る星祭

緑陰のベンチ婆様大の字に

午前二時ブルース幽かに熱帯夜

翼は何時も機の窓にあり雲の峯




白鷺集 '90/11



雲の峯とロッキーの峰越えて飛ぶ

ロッキーの山より山へ月渡る

ビール飲んでなすこともなき空の旅

花嫁のヴェールという名の滝白し

人類の化石出て来る谷暑し




白鷺集 '90/12



お屋敷のハモニカ長屋秋暑し

炎昼や引退近き大投手

蟻一匹石段をはう日暮かな

句を書いて画を描いてみる秋の暮れ

水面をつかんで鴨は池に降り