白鷺集 '89/1



菊人形春日局も美人にて

社殿にも一鉢飾って菊花展

からたちに山茶花混じる麟祥院

積む石も雪に埋もれし恐山

蕭条として石に吹雪ける恐山




白鷺集 '89/2



思案果てひたすら眠る夜長かな

トラックが落として通る木守柿

木守柿鳥のつゝきし痕ありて

椎の木の洞に積もりし椎落葉

参道に信号ありて椎落葉




白鷺集 '89/3



傘買ふと迷へば止みし時雨かな

時雨くる鳥居の向こふはネオン街

雲湧く如人湧き出づる暮の駅

注連はづし昭和を送る街となる

初場所も一日延びて昭和ゆく




白鷺集 '89/4



日曜は灯らぬネオン時雨くる

知人かと思ふ美女行く時雨傘

駅の声遠く聞こえて寒椿

マンションに日脚伸び来る勝手まで

それぞれの向きに蘭揺れ地震過ぎる




白鷺集 '89/5



桂林に似し山々や雪残る

奇岩に霧かかれば桂林めく景色

綱引けど鈴鳴らず神留守ならず

マンションの庭小さくて竹の春

ベル押して郵便夫去る竹の秋




白鷺集 '89/6



芭蕉館の庭は落花を掃き溜めて

散る花や耳の大きな芭蕉像

深川は倉庫の街や桃の花

中国人の留学生と春惜しむ

瀬戸大橋に夕陽春潮いや速し




白鷺集 '89/7



占は何時も吉なり蘭咲き継ぐ

白猫が足許に来て木下闇

テーブルに蟻登り来る芭蕉庵

一本は大きく曲がり竹の秋

トンネルの出口見え来て春の雨




白鷺集 '89/8



高層ビルに占の店五月雨るる

亀の鳴く池豪商の夢の跡

水上バスの乗場人なく梅雨寒し

梅雨寒に膝をかかえて芭蕉庵

旅立ちは三百年前鳥雲に




白鷺集 '89/9



天安門に戦車来る日も飛ぶ柳絮

天安門の柳絮何処に吹き散りし

枝豆のその一粒の青さかな

枝豆の真青な粒が飛び出しぬ

水上バスゆっくり過ぎる梅雨の街




白鷺集 '89/10



大夕立の中の道前発電所

隻手薬師の庭半夏生の花白し

大師像蝉時雨聞き聞き老い給わず

牡丹寺牡丹終われば広々と

半袖の腕組んで乗るエレベータ




白鷺集 789/11



隅田川の向ふのビルに西日落つ

西日落ちネオンの写る隅田川

一電車おくらせ冷房車両輌待つ

ベンチの美女見れば見返す木下闇

ブラックホールまた見付かりし天の川




白鷺集 '89/12



高校にロック響ける大暑かな

誕生日に胡蝶蘭咲く今年も吉

高速道五0キロ規制となる時雨

トンネルを出れば甲斐路は霧の中

霧深き笛吹川を渡りけり