富士見ゆる '91/1



三ケ日は富士見ゆる東京のビル住ひ

屋上に上れば富士の雪間近

学会に発てば車窓に富士の雪

新富士の駅舎透して富士の雪

雲海をせき止めて立つ富士の峯

雲海は富士にとぎれて機は西へ

行く年の夕陽に富士のシルエット




北  京 '91/2



黄落や北京の街路樹六列に

陰陽は千々に乱れて紅葉散る

天安門に警察多し小六月

紫禁城の石畳に生ふ冬の草

端渓の硯求めし後の月

惑星の水美しき秋の蝶

日本に帰れば富士の雪真白




衛星テレビ俳句会浅草寺吟行 '91/3



仲見世で寅さんに会う小春かな

マネキンの合格鉢巻北風中

線香の煙透してカメラ春隣

外人も御祈祷受付節分会

小春日の仁王の顔は漫画めく

真白な脳に句浮ぶ庭小春

悴める手に猪口持ちて大書院




混沌(カオス)研究会 '91/4



学会に来て金門橋に霧かかる

混沌を語る仲間に春嵐

混沌の研究会終れば霧の出る

菫咲くサンフランシスコのいろは坂

坂の街ケーブルカーに松緑

ワイキキの浜さまざまの肌泳ぐ

松田裕之君結婚
温暖の地球も美しチューリップ




大 銀 杏 '91/5



鎌倉八幡宮
大銀杏に何やら潜む寒さかな

実朝公が石段降りる寒さかな

朝日カルチャー
都庁舎の主定まらず春灯し

蛍光灯チカチカするも春灯し

教育テレビ「ノイマン」
コンピュータにも父母ありて春灯し

脳波にもカオス確かに春嵐

カメラに向いて語る向うは春の雨




薬師如来 '91/6



医師として薬師詣や花の雨

御落慶の薬師如来に花の雨

落花しきり1/fの風に乗り

桜田門へ黒塗車行く花吹雪

碧い眼のテキ屋店出すつゝじ祭

花疲れ選句疲れに休日過ぎ

バイオレオロジー学会を主宰
学会長は己のことなり梅雨近し




芭 蕉 庵 '91/7



関口芭蕉庵
蕉翁住みし神田上水走り梅雨

蕉翁もサラリーマンなりし走り梅雨

棋士の脳波(NHK教育テレビ
放映,同将棋講座八月号掲載)

お好み対局竜王棋王風薫る

竜王に棋王会釈して風光る

池田助教授と共著「英語は右脳
ですぐ話せる」(青春出版社)

米人と英語で話す春日中

教室の吉川さん結婚
大輪の牡丹開きし朝かな




揚 雲 雀 '91/8



どこまでも揚がる雲雀を見てゐたり

石垣島の雲雀のことを聞きしこと

父と来し椿の宮の落椿

葉桜に騒ぐ陽射しはフラクタル

蚊帳吊草の思い出何やら忘れけり

暑き海の泡より生れし生命かな

武永江邨さんより短冊掛
句友作る短冊掛の藍涼し




ていれぎ '91/10



石鎚の水ていれぎと句を育て

古里は思い出あふれる法師蝉

敬老の日が誕生日赤ワイン

軽石の擦り減ってゐて夜長の湯

書き捨てて句は反古となる夜長かな

鎌倉陰陽の滝
陰陽の滝二筋に岩を打つ

百日紅の花散かゝり吾を打つ

(註)ていれぎ・・・・愛媛県の清流に自生
する水草,刺し身のツマなどに使われる.




哲  学 '91/11



医師として哲学者として秋灯下

句が湧いてきそうな谷中の夜長かな

結晶のごとく散り敷く金木犀

ザクロの木ねじれ捩れて実をつける

ザクロの実ひび割れ南無の字を書くる

百日紅花の形は見定めず

松山南高校記念講演
百日紅母校百年吾等四十年

(註) 「哲学する」体験をした人が哲学者で,互いにすぐ判
るようである.私は京大時代に文学部哲学科に講座を持っていた.




故  郷 '91/12



古里は池の睡蓮未だ枯れず

古里は遠きにありてデビラ焼く

大奥の忍ぶ恋路の萩の寺

医学哲学会関東部会
哲学者の集い蜻蛉縺れ行く

地唄舞東恵美子先生
畳席で地唄舞見る菊の露

教室の瀬野君結婚
富士の冠雪間近に見つつ二人行く