富 士 の 雪 '90/1



パラボラアンテナ光りて富士の雪白し

富士の雪真下に見えて機は西へ

雲海に大きく聳える富士の山

富士の雪見えて東京のビル住い

深川を富士の雪見つ旅に発つ

何時来ても霧の隠せる富士の山

 堀之内幸二氏コンサート
シタールの音揺れインドは秋の夜




水 の 構 造 '90/2



元年の暮れ行く夕日は富士に落つ

いつの日も一私人なり初詣

元朝や金箔入りの酒光る

二日はや常のたつきの原稿書き

 脳波の新仮設発表
倍音の響く笛の音昼の月

 水の化学構造の新理論を考えて
水の構造見ゆ若水をいたゞきて

 小林仙人画伯の表紙絵
返り咲く牡丹の便り牡丹の絵




化   石 '90/3



ストーブは湯気立て金箔入りの酒

人もいつか化石となるべき冬落葉

昔なら大年増となる成人式

セコイヤの献木も混る冬木立

春なれや稲荷の裏に句碑ありて

 主婦の友文化センター
暖房を強くし夜の俳句教室

 朝日カルチャーセンター
ビルの模型に見入る子供や春隣




棋   士'90/4



棋士の顔凛と冷たく読みに入る

盤上はこの一手なり冴え返る

空咳は余裕しめすか総矢倉

春時雨銀は歩頭へぐいと出る

 NTVでご一緒して
対談楽し米長九段さわやかに

 プリブラム先生暗在系の説
人の縁も暗在系なれ鳥帰る

 友寄さん円周率の記憶
記憶術の極意の話春隣




三 分 咲 '90/5



春時雨ジェルソミーナの歩みゆく

通り過ぎて桜と気付く三分咲

落花舞ふ桜田門外警官隊

アベックと見しは女二人や落花舞ふ

桜には離れて鎌倉能舞台

落椿少女は人を寄せつけず

イデオロギーでは動かぬ社会蘭の花




 句    友 '90/6



花の命は以外に長し旅の窓

UFOかと見れば木星つつじ坂

論理では動かぬ宇宙花が散る

葉桜や未だ見ぬ句友懐しく

 石君来日,中国人留学生三名に
中国人と中華街行くうららかな

上海の留学生と春惜しむ

 朝日カルチャー俳句講座満一年
講義終へカルチャーへ急げば夕焼る




八   卦 '90/7



コンピュータ八卦店出す春の宵

婆様の足意外に速し藤の花

五月雨の車窓殺生石遥か

歳時記と煙草とり出す梅雨の旅

セントローレンス河に響く霧笛の懐かしき

 将棋の真部八段の脳波測定(日本テレビで放映)
打ちとけて棋士パパイヤをつまみゐる

 通産省の研究会などにて多忙
夜も昼も休日もなけれどビール楽し




 松    島 '90/8



松島へ吟行に発てば梅雨に入る

瑞巖寺ほどの寺なる夏木立

蕉翁着きし雄島が磯も霧の中

入船も出船も観光島うらゝ

一本の松を頂く島うらゝ

ジ・アースという名のビールのCO2

 寺本・松田両教授を迎えて隅田川に遊ぶ
屋形舟バナナボートとすれ違う




バンクーバー国際生物物理学会 '90/9



北極海の氷見つ飛べばバンクーバー

北バンクーバーは家々ごとの濃紫陽花

水の構造の論議楽しき氷菓かな

氷溶けて水分子にもあるパイ電子

海猫の鳴けば白夜の近き街

蛍飛ぶ野外劇場ミュージカル

パーティーはコンサートホールのバルコニー




 北米大陸 '89/10



ロッキーの岩真白に月冴ゆる

キングストンなる不落の城の蔦の塔

エンパイヤ降りれば直ぐ来る大夕立

 ワトソン研究所江崎玲於奈研究室
酷暑にも学問楽し友とゐて

 宇宙哲学の新説を考えて
ホーキングの虚時間も停る大暑かな

世の中は六十四卦星月夜

 米国物理生物学会より招待状
アメリカより招待状来る朝涼し




清澄園吟行 '90/11



爽やかや会えば句友とすぐ判る

曼珠沙華枯れて真赤な車来る

曼珠沙華枯れて緑の茎となる

ペレストロイカの団体客来る秋の苑

まくなぎのまつげにかかる苑の径

ゆりかもめ言問橋をさして翔ぶ

夕焼に少し間のある雲流る




 学   会 '90/12



あの家の柿たわわなる通勤路

香木を聞く右脳の爽やかに

学会の会場出れば後の月

学会を終へて車窓に月を得し

人づき合ひよき友なりし後の月

生涯に橇の句ひとつ星遥か

 焦国瑞教授練功六十年
功成るは国の瑞祥菊日和