フラクタルな世界 '89/1



物理ほど詩的なものなし霜柱

二次元半ほどの雪片舞い降りる

芥子粒のはじけて宇宙の生まれけり

滝の水三次元半の空を飛ぶ

滝の水砕けて飛べば異次元体

窓ガラスの氷曼陀羅の世を造る

樹氷林に入れば世界はフラクタル




 昭和から平成へ '89/2



松の内過て昭和の日も過ぎぬ

人日に人間天皇逝かれけり

蘭活けて今日は昭和の最後の日

テレビCMなくて暮れたる七日かな

「冬の旅」かけて昭和の最後の日

松過ぎて平成元年迎へけり

平成となる日朝から冬の雨




 山 茶 花 に '89/3



山茶花に警官遠くを見て立てり

大使館へ曲がる道なり寒椿

山茶花の垣まで来れば坂終る

トマトの木にトマト実ればチャボ遊ぶ

寒雀チャボと並びて餌を拾ふ

山王ホテル昭和史秘めて冴えかえる

正月のなき元年となりにけり




蘭 の 花 '89/4



牧神は笛持ち蘭の花黄色

牧神の午睡の刻や異人館

蘭一輪また一輪や世は移る

訳業の遅々と進まず蘭開く

地震ふればそれぞれ揺れる蘭の花

 宮中雲子さんより詩集
女流詩集紙より白き蘭の花

 徳田良仁画伯より表紙画
タンゴバー灯る頃や蘭の花




 芭蕉記念館 '89/5



蕉翁の坐禅の像に落花舞ふ

旅立ちはここより花も散し頃

住み替る世のならひとて花の散る

ヘリの音遠くに落花の句座靜か

塀越に隅田の川の春惜しむ

水門に信号機あり桃の花

行く年も旅人舟は遅々と往く




  中国吟行 ・・老竜頭は万里長城の起点'89/6



雲海の水平線に春日落つ

大木の藤咲天下第一関

長城は渤海に入るうららかな

長城の起点に立ちて春惜しむ

長城は山の彼方へ陽炎へる

渤海湾に向ひて練功春日遅々

天安門に柳絮舞う日は人多く
 (天安門前 飛柳絮,麗日滋人多  中国訳,庄さん)




   上海,黄浦江より長江に下る '89/7



長江へ舟の下れば春は行く

イアルサンで写真を撮れば船うらら

しな作り写真撮る姑娘春の風

長江に軍艦多し春日中

中国語たまに聞き取れ日永かな

川劇の手品始まる船の春

春日の長江船上句会かな




   近  況 '89/8



 東京雲雀句会
吟行は何時ものところ梅雨晴間

句会場は芭蕉記念館梅雨晴間

夕立の来ぬ間森下駅集合

NHK”芭蕉が青森へ行ったら”
蕉翁がエゾを望めば天の河

 韮崎,安田火災研修所
五月雨が富士を隠してよき景色

つつじ終わりテニスコートに誰も居ず

花曇り中央高速料金所




   星  祭 '89/9



万緑の山脈近し故郷の町

桜三里は豪雨となりしバスの旅

高橋由美女さんより水の贈りもの
水の惑星に棲む幸せの岩清水

真青なる地球も祭る星祭

朝日カルチャーセンター
天の川のごとき夜景に二人立つ

宮中雲子さん木曜手帳記念コンサート
音楽会に小さな秋を見て戻る

フルート奏者髪に手をやり秋の曲




 宇  宙 '89/10



宇宙の一隅に立ち銀漢を仰ぎけり

どこまでも膨らむ宇宙天の川

銀河に雲宇宙病むとき来るらしく

宇宙には光らぬ星あり天の川

ブラックホール何処に秘めて天の河

ブラックホールも光らぬ星も祭りけり

銀漢を仰げば地球に生まれけり




 十 一 夜 '89/11



ビル灯り家路を急ぐ十一夜

十二夜の剣士は少女恋の使者

恋の糸もつれもつれて十三夜

双眼鏡でクレータ見る小望月

ブランデー供えて望の月を見る

十六夜が誕生日なればボトル開け

キーン先生父を訪ねし十六夜




   二 十 三 夜 '89/12



再会は三十年後の故郷の月

十六夜やアメリカの友訪ね来る

たちまちの月に二人の影浮ぶ

居待月古里遠きビル住ひ

身に余るほどの果報や寝待月

アイディアのふと浮びたり二十日月

古里の二十三夜の月を見し