新春作品・富士の雪 '88/1



富士の雪間近に見えて裾野行く

大沢に雪流れ落つ富士の嶺

宝永山の山頂雪なく雲かかる

走り去る車窓に富士の雪低し

富士去りてただの枯野となる車窓




雲雀集 '88/1



ジープ一台汽車待っている枯木立

あぜ道に外車停まりし枯野かな

煙草買ふ少女や雪の軽井沢

ラグビーのハーフタイムも雪の中

親猫の眠れば子猫も靜かなり




雲雀集 '88/2



フランスへ行く人のゐて初句会

見知らぬ娘会釈して行く初詣

初詣のスタンプ押して芭蕉庵

拝殿の扉閉せば雪景色

温泉の町は屋上の芝青々と




雲雀集 '88/3



護岸工事の盛土匂ふ小春中

女スパイテレビに出てゐてそゞろ寒

左義長に片目の達磨正参道

神官の書初展は富士の文字

背の子が破魔矢で指さす飛行船




雲雀集 '88/4



ドラマひとつ完結をして卒業す

卒業や学問の道どこまでも

物理ほど詩的なものなし霜柱

車窓から富士を隠して山笑ふ

行春や社務所は古き柱時計




雲雀集 788/5



二次元半ほどの雪片舞い降りる

芥子粒のはじけて宇宙の生まれけり

留年の学生とゐて法月忌

燈台に歩む二人もおぼろなり

ビニールを敷いて花見の客となる




雲雀集 '88/6



釣鐘を売る店上野は花曇り

釣鐘のセールもありて江戸の春

つつじ苑通り抜け行く通勤路

怒ったように美人足速つつじ苑

友引の斎場靜かに八重桜




雲雀集 '88/7



影ひとつ二人になりておぼろ月

青桐や消防学校日曜日

蛇苺挿して太郎といふ喫茶

世田谷へ行く遊歩道蛇苺

高層のマンションに住み夏布団




雲雀集 '88/8



植木鉢土に埋もれて羊歯若葉

芭蕉庵の柱にもたれて暮れの秋

一対の風鈴ソナタ奏でゐる

鹿鳴館の車寄にも蛇苺

俳偕はかくのごとしと蛙坐す




雲雀集 '88/9



大使館の扉開きて濃紫陽花

片隅に遍路乗り合う特急車

卯之町に急行停まる青田かな

トンネルの上なる墓地の蝉時雨

墓地を売る話決まらず墓参り




雲雀集 '88/10



急流の千々に砕けてねじの花

南無大師霧に梵字を書き賜ふ

しばらくは滝を眺めて夏終る

滝壷に霧立てば即渕となる

滝の水宙を走れば裏見滝




雲雀集 '88/11



蹴った石翔ぶと見れば蛾となりぬ

案山子みな目玉模様の日光路

盗人萩里の灯恋しき化地蔵

秋の夜のドラマ史実も少しあり

この電車虹をくぐっているらしく




雲雀集 '88/12



夜釣人地蔵にバイクあづけ行く

大工町に匠町あり霧の町

山道のバス停は原宿赤のまゝ

屋上に稲の穂のぞく駅のビル

下乗橋渡ればサルビア真赤なり