新春作品 '87/1



赤人の富士の高嶺に雪少し

富士の雪日当たれば手に取るごとく見ゆ

富士の雪リアルに見える裾野行く

富士の嶺うっすらと処女の肌

柔肌をまだらに染めて富士の雪




雲雀集 '87/2



田子の浦富士見れば雪少しだけ

富士の肌まだらに染めて雪積もる

富士の高嶺の雪に光れるものゝあり

裾野行く列車は富士の雪間近

田子の浦富士は遠くに草枯るゝ




雲雀集 '87/2



デパートの花屋はセールにシクラメン

模型の中の公園何時も新緑の街

噴水止まりし池の枯葉かな

噴水の水涸れてゐる年の暮れ

酔鯨という酒燗を熱うせよ




雲雀集 '87/3



田作りをちょっとつまんで初句会

ビル街の街路樹みんな枯れている

元朝の新聞どかと届きけり

雪解けの水湯気立てる歩道往く

夕時雨この店何時も準備中




雲雀集 '87/4



カーニバルの人出見知らぬ人ばかり

カーニバルパレード終われば友と会ふ

老楽士に貰ふ謝肉祭の首飾

欲望といふ名のバスに春日射す

ミシシッピー下れば翔び来る都鳥




雲雀集 '87/5



この町は黒人多し棕櫚の花

棕櫚の花電車の運転手は女性

人混に知人と出会ふ謝肉祭

河岸の海軍基地の猫柳

ミシシッピー大きく蛇行猫柳




雲雀集 '87/6



草餅売の婆顔見せる実験室

橋桁にペンキの落書春とあり

花冷や夜中灯るビデオ店

春雨に歌えば街の灯消えて行く

山吹に番犬何時も寝てばかり




雲雀集 '87/7



春昼や隣の中学校靜か

噴水が突然止まり子等黙る

公園で昼寝の一家乳母車

薔薇のアーチに薔薇一輪のたたずまい

浜木綿こく浜辺に近きターミナル




雲雀集 '87/8



雷雲を裾に侍らす富士暮るる

COFFEEのネオンの下の富士の雪

荒川の波も土用のうねりかな

温泉へ二キロ堀端梅雨景色

山に霧かゝれば桂林めく景色




雲雀集 '87/9



ルソーの絵時間停まりし羊歯若葉

白樺若葉ロールスロイスとすれ違う

大賀蓮開き切ったる浄土かな

蜩や古き医家には調合座敷

風に流る精霊蜻蛉湧くごとし




雲雀集 '87/10



夕顔や往きかふ人みな美しく

庭園に水田のある水戸屋敷

君だけが居る風景の蝉時雨

藤棚に藤なくゲートボール場

口開けたまま鴉とまれる炎天下




雲雀集 '87/11



霧深しライトを灯けた電車来る

人に会ふ日は人美しき木槿咲く

砂町へ女降りたつ駅暑し

文庫本おいて浮浪者の昼寝

思索する左脳に虫の音かしましき




雲雀集 '87/12



向日葵の雌蕊の朱色見つめけり

ゴッホ展出れば台風の雨となる

地下街の花屋は何時もシクラメン

客あれば愛犬吠えず柿若葉

税務署へ行かねばならぬ松手入